4月8日の閉幕を目前に控え、ますます注目が集まっている「オルセー美術館展―19世紀 芸術家たちの楽園」。本展の日本側のコミッショナーを務められ、過去2回のオルセー美術館展の企画にも深く関わってこられた美術史家の高橋明也先生をお招きし、全4回シリーズでお送りした今回のサロン講座もいよいよ最終回を迎えることになりました。 今回は全3回のオルセー美術館展に一貫した「近代とは何か?」という大きなテーマを、出展作品を通して浮き彫りにしていただきました。
 
集大成となる「19世紀 芸術家たちの楽園」展
公式カタログ
▲ベルト・モリゾ『ゆりかご』1872年
©musée d'Orsay - photo P.Schmidt

 「今日は現在開催中の展覧会についてお話をしようと思っていのですが、改めて3回のオルセー美術館展を振り返ってみたいと思います」
 最終回の今回は、過去3回の講座の総括ともいえる充実した内容となりました。
  第1回展「モデルニテ:パリ・近代の誕生」が開催されたのはオルセー美術館の開館10年目にあたる1996年のこと。初めて日本にオルセー美術館のコレクションが上陸した記念すべき展覧会として大きな話題となりました。そしてこの展覧会成功の影には絶妙なタイミングが潜んでいた、先生はお話されます。
  「当時は、東京都が“東京ルネサンス”という一大プロジェクトを立ち上げ、東京でさまざまな文化的なイベントを開催しようという機運が高まっていました。また、開館10周年を迎えたオルセーがフランス国内だけではなく、その評価を世界的に示したいと考え出した頃でもあります。ここに神戸の震災からの復興という、大きな要素が加わりました。こうしたタイミングが一致して、戦後の展覧会史のなかでも記録に残るものとなったのです。」
 この第1回展は、東京都美術館のそれまでの企画展の入場者記録を塗り替えることになる52万人の来場者数をはじき出しました。こうした輝かしい記録とともに、3回におよぶ日本でのオルセー美術館の歴史は幕を開けることになったのです。

 「3つの展覧会は各回でテーマは異なりますが、一貫して“近代とは何か?”ということを追求してきました。例えば、レンブラントら17世紀オランダの画家たちが多く描いた集団肖像画によく似た印象を残す、19世紀のファンタン・ラ・トゥールが描いた家族の肖像。本作は第1回展に出品されたものですが、そこにはバロック特有のドラマティックな光と影の描写はなく、極めて日常的な風景が切り取られています。まさにこれが“近代の証”なのです。」
 つまり、宗教や哲学的背景を画面から排除していくこと――それが「モダン」なのだと、3回の展覧会に出展された作品を見直しながら、19世紀の画家たちがとらえた“近代”を分かりやすく説明してくださいました。
  これまでのサロン講座を通して、その言葉の端々にオルセー美術館展に寄せる深い愛情と情熱を感じさせてくださった高橋先生。先生のお話を聞く度ごとに、展覧会に足を運ばれた参加者の方もいらっしゃったようです。また、高橋先生のユーモアと親しみあふれるお人柄のせいか、講座終了後のサロンでは、回を重ねるごとに先生を囲む参加者の方々の姿がより多く見受けられるようになりました。最終回の今回は、2010年完成予定の三菱一号館美術館の館長ご就任のお祝いとして、MMFから高橋先生にお花をプレゼント。ホワイエには拍手が巻き起こり、サロン講座ならではの温かな雰囲気に包まれた最終回となりました。

同館誕生20周年を記念し、オルセー美術館との連携により公開しているMMFサイト内特集ページもぜひご覧ください。
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