レクチャー・コンサート 「絵画から復元された楽器たち―中世フランスの音楽を楽しむ―」
初めて目にする古楽器がずらりと並べられた。中川氏(奥)、近藤氏(中央)、
坪田氏(手前)の奏でるハーモニーが、心地よく会場を包み込む。
日時 2007年12月12日(水)15:00-16:30   演奏 中川つよし氏、近藤治夫氏、坪田一子氏
今回、MMFの初の試みとして開催されたレクチャー・コンサート。耳で聴く「音楽」と目で楽しむ「絵画」は、一見まったく別の芸術のように思われますが、まるで同じ母から生まれた双子のように、非常に深い関係をもっていることに参加者の皆さんは、とても驚かれた様子です。ふだんあまり目にすること、また耳にすることのない古楽器とその調べに、魅了された午後のひと時となりました。
 
 
▲文献に描かれているのとそっくりなバグパイプの音色も披露された。
 今回、古楽器演奏とレクチャーをご担当いただいたのは、古楽のスペシャリストとして広く演奏活動をされている中川つよし氏(リコーダー他)と、演奏活動とともに本邦初のバグパイプ工房を開設し、自ら古楽バグパイプの製作も行っている近藤治夫氏(バグパイプ、ハーディ・ガーディ他)です。そして、紅一点として坪田一子氏(ヴィオラ・ダ・ガンバ)も演奏に参加してくださいました。
 プログラムの幕開けは、「宮廷歌人と踊り歌」をテーマにした2曲。やわらかな音を奏でるリコーダーと、お腹の底に響くようなバグパイプに、ヴィオラ・ダ・ガンバの弦の音色が加わると、荘厳な響きが会場を包み込みます。演奏の途中、新しい楽器が加わり、また違った音が鳴り始めると、参加者の皆さんは音色を楽しみながらも、どんな楽器を使っているのか、興味津々で首を伸ばされます。
 まるで序曲のような2曲が終わると、中川氏が口を開かれました。「古楽器演奏の底辺にあるものは、音楽図像学です。つまり絵画を読み解いていくことは古楽器の世界ではとっても重要なことなのです。現在では中世の時代に使われていた楽器は、ほとんど失われてしまいましたが、絵画作品が、オリジナルが現存していないものの復元を可能にしたり、またその演奏法まで伝えてくれたりします」
 たとえば太陽神アポロンが描かれている絵画には、持物であるリラ(竪琴)が必ず描きこまれているので、そこからリラを復元することができます。スライドに映し出される絵画作品を、音楽家からの視点で“読む”解釈は、美術に関心のある参加者の方にも新鮮な発見があったようです。
 また近藤氏からは実際に絵画作品に描き込まれているバグパイプや騎馬隊が演奏するようなラオシュプファイフェといった珍しい楽器を、実物とともにご紹介いただきました。農民の画家と呼ばれたピーテル・ブリューゲルの《農民の踊り》には、細部まで驚くほど正確にバグパイプが描かれています。近藤氏の工房では、実際にこの作品を資料として「ブリューゲル型バグパイプ」を作られているとのこと。美術作品が古楽器の復元に大きな助けになっていることが分かります。
 こうしてレクチャーと演奏が同時並行で進んだ今回のレクチャー・コンサート。宮廷で演奏された舞踏曲から宗教的な歌曲、またクリスマスにちなんだ楽曲など全13曲が披露されました。耳と目を大いに満足させられた参加者の方からは、アンコールの手拍子もあがるほど。クリスマス一色の銀座で、中世の調べにすっかり魅了されたひと時となりました。
 3月には、「太陽王の音楽」をテーマにした古楽器によるレクチャー・コンサート第2弾を開催予定です。今回ご参加いただけなかった方々もぜひお楽しみに! 詳細は2月のMMFのwebサイトにてご確認ください。
▲近藤氏が手にしているのは、回転板が弦を擦って音が出る独特の仕組みをもつ「ハーディ・ガーディ」。
 
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