ヴェルサイユ 美しき時代の物語
 MMF開館5周年記念企画として、前回のサロン・コンサートに引き続き、ヴェルサイユを舞台にしたサロン講座が4月11日、4月25日の2回にわたって開かれました。2回シリーズの今回のサロン講座の講師は、青山学院女子短期大学教授の大野芳材氏です。大野先生のご専門はロココ美術。ヴェルサイユ華やかしき時代の芸術を、軽妙で親しみやすい口調でお話しくださいました。
 「フランス美術というと、日本では印象派がもっとも有名でしょうが、最近ではほかの時代の美術にも関心が高まってきていますね。一昨年開催されたヴェルサイユ展もひじょうに多くの方に足を運んでいただきましたし……」との先生の言葉通り、今回のサロン講座は両日とも、募集後たちまち満席になるほどの盛況ぶりでした。
 第1回目の「ヴェルサイユ 祝祭と美術:ルイ14世」では、改めてヴェルサイユが王宮としての役割をスタートさせた頃の歴史から、ていねいに紐解いてくださいました。もともと王家の狩猟のための館だったヴェルサイユ城を政治の中心としたのは、ルイ14世です。ヨーロッパのなかでフランスの地位を確固たるものにさせた王は、その政治的手腕だけでなく、祝祭好きで、バレエ好きという一面ももっていました。イアサント・リゴーによって描かれたあの有名な肖像画で、まるで女性のように“脚線美”を誇らしげに見せているルイ14世の姿からは、バレエをこよなく愛した王の素顔が伝わってきます。こうしてルイ14世の時代にヴェルサイユで花開いたフランスの宮廷文化は、やがて18世紀になると経済的発展などを背景に少しずつ変化を見せてくることになりました。
 第2回目の「ヴェルサイユ宮殿と国王の愛した女性たち:ポンパドゥール夫人とマリー=アントワネット」では、先生のお話の舞台はその18世紀へと移ります。飛躍的な経済的発展を遂げた18世紀のフランスは、権力が王侯貴族から少しずつ市民階級へと移っていく時代でもありました。同時に芸術の舞台もヴェルサイユからパリへと代わっていきます。そんな頃、再びヴェルサイユで大輪の花が2輪咲き誇ることになります。それがルイ15世の寵姫ポンパドゥール夫人と、続くルイ16世の王妃マリー=アントワネットでした。ブーシェなどの芸術家やセーヴル窯などを擁護し、ロココ芸術を愛したポンパドゥールと、新古典主義が萌芽してくる大きな変革期に独自の美学を貫いたアントワネット。幼い頃から豊かな教育を受けていたポンパドゥールは高い審美眼の持ち主で、ヴェルサイユのみならずフランス芸術に大きく貢献することになります。そしてさまざまな伝説に彩られたアントワネットは、ポンパドゥールほど美術的教養はもち合わせていませんでしたが、オーストリア宮廷で育まれた枠にとらわれない美的センスを大いに発揮しました。ロココに代わり新古典主義が台頭し、またフランス革命という大きな時代の波が押し寄せる前夜のヴェルサイユを語る上では、このふたりの女性は欠くことができない存在です。
 美術史はもちろん、フランスの時代背景までスライドを交えてお話しいただいた2回のサロン講座。ヴェルサイユ通の方も、ヴェルサイユ初心者の方も同時に楽しめる豊かな内容となりました。
 講座後のホワイエでは、大野先生のまわりに参加者の皆さんの人垣ができあがりました。「なんでアントワネットはいつもバラの花を持っているんでしょうね」など、素朴な質問にも気さくにお答えいただく先生の姿がとても印象的なサロン講座となりました。