「宮廷の服飾史」
 MMF開館5周年記念のサロン講座もこの「宮廷の服飾史」が最終回となりました。今回お話しいただいたのは、日本女子大大学院客員教授でいらっしゃる田中俊子氏。華やかなテーマにふさわしく、今回も多数のお客様においでいただき、会場は華やかな雰囲気でした。
 「こちらにお集りの皆さんは、フランスに対してモードの中心地といったイメージをお持ちでしょう。今日は皆さんと一緒にフランスという国がモード界に及ぼしてきた影響を歴史とともにたどってみたいと思います」と口火を切られた田中先生。そのエレガントなたたずまいとお話ぶりに、期待が高まります。
 フランス宮廷がもっとも輝いた17世紀〜18世紀は、フランスモードにとってはとても重要な時期だったとのこと。宮廷の貴族によって華やかなフランスの服飾史が幕を上げることになったのです。
「じつはそれ以前のヨーロッパのファッションの中心地はイタリアやスペインだったんです。ルイ14世がフランス絶対王政を確立する17世紀頃から、フランスはモードの中心地としてもヨーロッパに確固たる地位を築きました」
 美術ももちろんそうですが、服飾史の流れもまた、政治的・経済的背景と並走するかのように移りゆくことに驚かされました。たとえば、ルイ14世は、イタリアから多くの職人をフランスのリヨンに招聘し、短期間で織物の技術を習得させ、その後リヨンは優れた絹織物の産地として成長と遂げます。つまりルイ14世は、それまで外国に頼っていた技術や服飾材料を、自国でまかなえるような体制を整えていったのです。「ルイ14世はフランスの宮廷では、フランス産のレースを着用するように義務付けたりもしたんですよ」と田中先生。さらに先生は、17世紀に発刊されたファッション誌の挿し絵などを参考に、男性と女性のファッションの歩みやルイ14世、マリー=アントワネットの趣味にまで細かく言及くださいました。ハイヒールを履きリボン飾りをたくさん付けた華美な男性のファッション、アントワネットの時代に流行した巨大なヘアスタイルや帽子の数々は、今では考えられないほど奇抜なもの。そんなお話にも皆さん驚かれたり、感心したりと華やかでいて実りある内容となりました。
 さて、今回のサロン講座、いつもご参加されている方々は少し会場の雰囲気が違うと感じられたのではないでしょうか?今回はテーブルを会場内に配置させていただきました。それは……。そう、田中先生のお話の後は、マリー=アントワネットをイメージして特別につくっていただいたケーキの試食のためだったのです。
今回、このオリジナルケーキをつくってくださったのは、プランタン銀座にある「アンジェリーナ」のシェフ・ド・パティシエ森木潤一氏。森木さんにこの日のためにおつくりいただいたのは、「バラの香りのババロア・シャルロット仕立て」です。スプーン状のビスキュイを敷き詰めて型をとったものに、アントワネットが愛したバラの香りのババロアとイチゴを封じこめ、さらにはイチゴやブルーベリー、キウイなどの旬のフルーツで仕上げられたもの。あごの部分でリボンを結ぶシャルロット帽をイメージしたとても華やかなケーキです。さっぱりとした口当たりと季節の香りいっぱいのケーキを楽しみながらの田中先生とのフレンチ・モード談義は、尽きることない様子でした。
ヴェルサイユ 美しき時代の物語

この日のためだけにつくっていただいた「バラの香りのババロア・シャルロット仕立て」。香りづけのバラのエッセンスも純国産のものを使用したこだわりの一品です。