サロン・デ・ミュゼ・ド・フランス「フランスの食卓の歴史とサーヴィスの変遷〜中世から現代〜」
 2008年最後となるMMFのサロン講座は、パーティや会食の機会が多くなるこの季節にふさわしく「食卓」をテーマにしたものとなりました。講師にお招きしたのは日本とフランスをつなぐ食文化の架け橋として活躍されている、フランス料理文化センター事務局長の大沢晴美氏です。
「食文化を語るとき、なぜ必ずフランスが出てくるか、皆さんはご存じですか――?」 満席の会場の皆さんに発せられたのは素朴ゆえに、難しい大沢先生からの問い。この質問の答えは、続く先生のお話のなかにありました。

大沢晴美先生
 レストランのサービスは、大きく4つに分類されます。客が自分で皿に取り分ける「フランス式サービス」、会食者の前で大皿の料理や、丸ごとの料理を切り分けたり取り分けたりする「ロシア式サービス」、サービスマンがクーベール(サービス用のスプーンとフォーク)を使って客の皿に盛り付ける「イギリス式サービス」、そしてシェフが厨房で皿の盛り付けを仕上げる「皿盛りサービス」です。「現在のレストランでは、この4つのサービス方法がミックスされて行われているところが多いですね」と大沢先生。フランス式サービスの原型はすでに中世の食卓に見られ、当時の様子が表わされたタピスリーなどが、参考資料としてスクリーンに映し出されました。「中世の時代には、会食者は大テーブルの片側だけに並び、テーブル一杯に並べられたご馳走をほとんど手づかみで食べていたんです。当時、ナイフとスプーンはありましたが、フォークはまだ登場していません。一度に出された料理はいったん下げられ、そのあとまた一度に別の料理が大皿に盛られて運ばれてきます。その間に会食者たちは、吟遊詩人や踊り手による“エンターテイメント”を楽しみました。その余興を見るために、テーブルの片側だけにみな座ったという訳です」
 4つのサービスの変遷をスライドとともに丁寧に見ていったサロン講座終盤、どうやら参加者の皆さんにも最初の問いに対する答えが見えてきたようです。
 「答えはもうお分かりいただけましたね。まず一つは、フランスが他国に先んじて、絶対王政が敷かれた国であったということ。王の宮殿で開かれる晩餐会などはサービスを体系化し、より洗練されたものに昇華させました。そして革命があったことももう一つの答えです。王侯貴族たちだけのものであった食卓文化は、革命を経て一気に人々の間に広まったのですから」
 テーブルに並べられた食器などに向ける細やかな視点と、フランスの歴史をとらえるダイナミックな視点でお話いただいた1時間半あまりのサロン講座。大沢先生は印象的なこんな言葉で締めくくってくださいました。「レストランの語源はフランス語の“レストレ=修復する”にあります。まさしく疲れた人の肉体と心をいやすためにある場所ということです。そしてフランスのレストランは、すべての人に平等に開かれています。どんな三ツ星レストランでも、メニューと値段は外から見えるように貼り出されているのです。ここにもフランス革命時の“自由”“平等”“博愛”の精神が生きているのですね」