第2回「ギリシャ美術の誕生からヘレニズム」
ルーヴル美術館の所蔵品を通じて、古代から近代までのそれぞれの時代を見る全4回の連続講座。2月のテーマは、「ルーヴル美術館を通して見る<古代>」です。第2回は古代ギリシャ美術の魅力を、ルーヴル美術館所蔵の名品とともに、東京学芸大学名誉教授の水田先生にお話いただきました。

 古代ギリシャ美術は、西洋美術の規範であり、美術史を理解するうえでとりわけ重要な位置を占めています。しかしたくさんの神々や英雄が活躍するギリシャ神話を題材にしたものが多いこともあり、わたしたち日本人には理解したり、鑑賞したりすることがなかなか難しいのもまた事実です。今回はそんなギリシャ美術の背景にある神話や人々の思想観などを水田先生に分かりやすくお話しいただいた好機となりました。
 まず参加者の皆さんには、水田先生がまとめられた古代ギリシャ時代の地図と年表、さらにはスライドで紹介される作品名や制作年代が明記された資料が配られました。カタカナが並ぶ神話上の神々や英雄たちの名前は日本人にはなかなか耳慣れないもの。この手元資料は作品への理解を深めるうえでとても助けになります。
 「ルーヴル美術館の古代ギリシャ美術部門の礎を作ったのは、ナポレオンが見出したイタリアの考古学者ヴィスコンティでした。彼はローマ時代にコピーされたいわゆる『ローマンコピー』の作品も重要視することで、ギリシャ美術を体系化することに成功しました。イギリスの大英博物館やドイツのベルリン美術館などにも、古代ギリシャ美術の名品は数多くありますが、ローマンコピーを正当に評価した美術館としてはルーヴルがピカイチなのです」。そんな先生の言葉に導かれ、スライドにはルーヴル所蔵のギリシャ美術コレクションが次々と映し出されます。ギリシャ美術の始まりを飾る「幾何学様式時代」から、作品とともに時代を辿っていくと、写実性や人間の内面的表現、そして奥ゆきを感じさせる遠近法へと、古代ギリシャの人々がどんどん表現の幅を広げていったことに気付かされます。例えばルーヴルの傑作のひとつである大理石彫刻≪ランパンの騎士像≫は、アルカイックスマイルを浮かべた明るく生き生きとした表情が印象的。またルーヴルは、英雄ヘラクレスの12の功業を描いたオリンピアのゼウス神殿のメトープ(神殿建築の柱の上部などに施された浮き彫り石板)の内、2面を所蔵しています。その浮き彫り彫刻のヘラクレスとアテナ女神の姿からは、古代ギリシャの人々の神々に対する深い信仰心がありありと伝わってきます。「ギリシャ美術とは、つまりは、秀でて優れた宗教美術だったのです。のちのキリスト教美術などとは少し性格が違うものの、当時の人々は「神話」の中に生きる神々や英雄たちを、自分たちの心の問題にまで引きつけて考えるようになったのです」。こうした先生の言葉から、古代ギリシャの美が何千年もの時を超え、我々の心を揺さぶる理由が少し分かった気がしました。悠久の昔のものと思っていたギリシャ神話の世界や古代ギリシャ美術を身近に感じられる、貴重なサロン講座となりました。講座の後は、サロン講座ならではのティータイム。今回はギリシャにちなんだピスタチオのクッキーと、ギリシャのお祭りや結婚式などで食べられる甘いお菓子グラビエスをお楽しみいただきました。