ラリック生誕150周年を記念して国立新美術館で開催中の「ルネ・ラリック 華やぎのジュエリーから煌めきのガラスへ」。今回のサロン講座では本展のコミッショナーである美術工芸史家、池田まゆみさんをお招きし、展覧会の出品作を通じて、ラリックの世界観をたっぷりお話しいただきました。

ラリック展コミッショナーである池田まゆみ氏

 「今回の展覧会では、<誰も見たことのない>ラリック展というコンセプトを掲げ、可能な限りの作品を集めて紹介しています。“誰も見たことのない”作品を制作すること――。それはラリックの生涯を通じてのモットーでもありました。そして各出品作を、前半生をジュエリー・アーティストとして、後半生をインダストリアル・アーティストとして生きたラリックの人生歩みに沿って展覧しています」。展覧会の概要からお話を始められた池田氏の言葉通り、本展では、2,000m2という巨大な空間を生かして、411点もの作品が出品されています。「ラリックの作品はジュエリーから、ガラス工芸品まで、ひじょうにバラエティに富んだものなのですが、どんな作品群も面白いことに、違和感なくピタリと収まるんです」と池田氏。それは、揺らぐことのない美に対するポリシーをラリックがもっていたからなのかもしれません。
 ラリックは1860年、シャンパーニュ地方の質素な家に生まれました。16歳の頃、父親が亡くなったのを機に、宝飾工芸家の工房に弟子入りします。ラリックはキャリアの前半にあたる19世紀末から20世紀初頭にかけてはジュエリー制作者として過ごしますが、これは「アール・ヌーヴォー(新しい芸術)」と呼ばれる装飾美術が流行する時代と重なっています。「ラリックが一躍世界の脚光を浴び、名声を獲得したのは1900年のパリ万国博覧会のことでした。この時、100点以上の作品を出品したラリックは批評家に『ラリックこそが1900年のパリ万博におけるフランスの勝利』と絶賛されることになります」。
 この1900年のパリ万博に出品され、人々を驚嘆させたのが、1897年のサロンで国の買い上げとなったラリックの出世作ハットピン≪ケシ≫です。画面に映し出された写真からもその繊細な美しさにため息が漏れるほど。こうしたラリックの傑作の細部までを間近に見ることができるのは、今回の展覧会ならではの贅沢です。「私は以前、デザインするのはラリックに違いないのですが、これらのデザイン画はラリック自身が描いたものなのか、それとも工房の助手に描かせていたのか疑問に思っていましたが、展覧会準備の資料調査を通じて、ラリック自身が描いていたと確信しました。ジュエラーらしく、それぞれの素材の質感が手にとるように分かるのです」。今回は作品と同時に多くのデザイン画も展示されているので、見比べてみるのも面白いですね。


会場の風景

 さらに、話題はラリックの後半生へと進んでいきます。「ジュエリーの世界で頂点を極めたラリックでしたが、1910年代頃からガラスの量産を開始しました」。そしてこの頃から時代は、「アール・デコ」と呼ばれるモダンな新様式へと移り変わっていくのです。ラリックの人生は、新しい装飾様式の変遷とともにありました。「ラリックは、美はすべての人々にとって平等なものだと思っていたのだと私は考えます。石油王グルベンキアンなどの富豪の顧客を抱える一方、一般の人々でもちょっと手を伸ばせば届くような、ガラスのグラスなども量産しています。1点ものの豪華なジュエリーの美しさはもちろんですが、量産品のなかにも徹底してデザインを展開したところに、ラリックのすばらしさがあるのでしょう」。ひと言ひと言に、ラリックとその作品への熱い想いが込められた池田氏のサロン講座。参加者の皆さんもラリックという人物にすっかり魅了されたようでした。
 MMFブティックでも、8月末までラリックの美が凝縮された商品を特集して販売しています。展覧会とともに是非お楽しみください。