西洋の“書道”ともいえるカリグラフィーは、特殊なペンを使って書く、文字の芸術でもあります。ノエル(クリスマス)直前の12月16日、日本におけるカリグラフィーの第一人者、瀧川貴子氏をお招きし、その歴史をひもとくレクチャーとともに、基本的なゴシック体を実際に書いてみるワークショップが開催されました。

すっかりクリスマスの雰囲気に包まれた銀座の12月。この日はいつものMMFサロン講座とは、少し違った雰囲気です。会場の机の上には、レクチャー用資料のほか、カリグラフィー用のペンと数枚の紙がすでに用意されていました。参加者の皆さんは机につくなり、用意された特殊なペンを興味深げに手に取ったり、見入ったり……。自然とレクチャー&ワークショップへの期待感が高まります。


カリグラフィー講師の瀧川貴子先生

今回、講師には手書きアルファベットの美しさに魅せられて以来、研鑽を積み、現在カリグラファーとして第一線で活躍されている瀧川貴子氏をお迎えしました。

「今日はカリグラフィーの歴史のお話のあと、実際に皆さまに体験していただいて、手書き文字の美しさに触れていただきたいと思っています」と瀧川先生。スライドにはまずルーヴル美術館が所蔵する15世紀の写本の1ページが映し出されました。

「≪聖マルティヌスの愛徳≫と題された写本の1ページです。聖マルティヌスはフランスの守護聖人のひとりで非常に人気の高い聖人です」。聖人の代祷のエピソードが画家ジャン・フーケの手による細密画と、美しく流麗な文字によって表されています。

「このようにカリグラフィーは写本装飾の一部として発展してきましたが、その歴史はキリスト教と密接な関係にありました」。先生は、聖マルティヌスのエピソードから、キリスト教の重要な地であったトゥールの歴史、さらにカリグラフィーの発展に尽力したカール大帝までの話を、スライドを織り交ぜながら分かりやすく説明して下さいました。

その間にも、先生が実際に使われている羽根ペンやインク、そして手書きのデモンストレーションなどを披露されると、参加者の皆さんから活発に質問が飛び交いました。

「映画などで目にするような、ふさふさの羽根ペンではなくて、少しがっかりさせてしまったかもしれませんが……。実際は羽根の片側あるいは両側を落として使います。ガチョウの羽根や、大きな書体を書く時にはコンドルの羽根を使うこともあります」と瀧川先生。今回のワークショップでは市販の専用ペンを使いましたが、プロのカリグラファーの方々は、実際に羽根を削って、自分の使いやすいペンを作るとのこと。ふだん余り触れることのない、カリグラフィーの奥深い世界に、皆さんすっかり魅了されたようです。

さて、レクチャーのあとは、いよいよワークショップです。今回はフランスの古文書で使用されるゴシック体の基礎に挑戦しました。短時間にもかかわらず、瀧川先生のコツを押さえた的確な指導で、初挑戦の参加者の方々も、みるみる間に上達。ワークショップ後半には、クリスマスか新年に向けたフランス語のあいさつ文のいずれかを選んで、カードに仕立てることができました。最後は、自分で書いたカードを持って、先生を囲んで記念撮影。手書き文字の美しさとともに、自ら書く楽しみまでを体験できたレクチャー&ワークショップは、和気あいあいのうちに幕を下ろしました。