ヴィジェ・ルブランとライヴァルたち〜マリー=アントワネットの時代の女性画家たち〜

東京のあちこちで桜が満開になり始めたこの日、三菱一号館美術館で開催中の「マリー=アントワネットの画家 ヴィジェ・ルブラン―華麗なる宮廷を描いた女性画家たち―展」の見どころを、本展のコミッショナーを務められた大野芳材先生が語ってくださいました。

 「芸術とは人間にとってとても重要なものであると、私は考えています。日本は東日本大震災という未曾有の災害に見舞われましたが、私のこの考えはいささかも変わっていません。私たちは物質的な豊かさをこれまで享受してきましたが、今こそ文化や芸術に目を向けて、そこに楽しみを見いだしていく生活へと変化していく時ではないでしょうか――」

 こんな大野先生の言葉から今回のMMF講座は幕を開けました。会場に集まられた人々の願いはみな同じ。被災地とそこに暮らす方々の生活が一日も早く復興し、そして人々の心に潤いがもたらされる日を祈っています。芸術がわずかでもその一端を担えれば――。そんな空気が会場を満たしました。


 フランスで1番有名な王妃と言っても過言ではないマリー=アントワネットお気に入りの画家であったヴィジェ・ルブラン。しかし意外なことに、ヴィジェ・ルブランが展覧会のメインタイトルを飾ったことは、フランスでもこれまで一度もないそうです。

 「三菱一号館美術館で開催中のこの展覧会は、非常に貴重な機会です。フランスで今後ヴィジェ・ルブランの展覧会が開かれる際の、大きな布石となるでしょう」

 そんな重要な意味をもつ展覧会が日本で開催されることは、日本の美術愛好家の層の厚さを物語っているようです。それはこの日ご参加いただいた方々の熱心さからもうかがえました。

 「皆さんは、女性画家はどの時代からいたと思われますか?」

 大野先生お話は本展の重要なテーマである女性画家の存在そのものから始まりました。王立絵画彫刻アカデミーの設立、そこでの女性画家の立場、さらには女性画家が描くことが難しかった「歴史画」についてなど、専門書を読まないとなかなか知ることのできないような内容も、とても分かりやすく説明してくださいます。

 そうしたバックボーンを踏まえたうえで、さらにお話は展覧会の見どころへと進んでいきます。初期の女性画家といえるエリザベト=ソフィ・シェロンの《自画像》、本展の見どころのひとつでもあるルイ15世の妃マリー・レクジンスカが描いた彩色パネルなど、次々とスクリーンに映し出される作品に手短ながら、興味深い解説を大野先生の解説が続きます。

 そして、ついにヴィジェ・ルブランの登場です。
「マリー=アントワネットの母でオーストリア女王のマリア・テレジアは、フランス王妃となった娘の肖像画を見たいと切望していました。でも、なかなかマリー=アントワネットのおめがねにかなった画家は現れない。その座を射止めたのがヴィジェ・ルブランでした」

 そんな説明ののち、大野先生は本展の出品作に加え、今回は来ていないヴィジェの代表作も合わせてご紹介してくださいました。ヴェルサイユ宮殿美術館所蔵の有名なバラの花を持った王妃の肖像や、周囲の批判を買ったという部屋着姿のマリー=アントワネットの肖像など、いかにヴィジェが王妃の画家として重用されていたかが分かります。

大野芳材先生

 ヴィジェをはじめ、そのライヴァルなど、女性画家の世界を丁寧に解説いただいた1時間半。コミッショナーとして深く展覧会に関わられた大野先生だからこそお話いただける、濃い内容の講座は、既に展覧会に足を運ばれた方にも、これから行かれる予定の方にも楽しんでいただけたようです。終了後会場のあちこちからは「もう一度、展覧会に行ってみよう!」「来週行くのが楽しみ!」といった声も聞かれました。

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MMFのwebサイトでも「マリー=アントワネットの画家 ヴィジェ・ルブラン―華麗なる宮廷を描いた女性画家たち―展」に関する記事をご紹介しています。