「定義のないもの、それが琳派。その奥義に触れてみる」

2015年の今年は琳派誕生400年という節目の年。京都や東京では、琳派にまつわるさまざまな企画展が行われており、京都国立博物館では京都初の大規模な展覧会「琳派 京を彩る」展(11月23日まで)が開催中です。今回のMMMでは、本展覧会の監修者であり、琳派研究の第一人者である河野元昭氏を講師にお迎えし、琳派の魅力に迫りました。

 琳派は、京都で刀の鑑定などを行う家で生まれ、書家として活躍した本阿弥光悦が、1615年、徳川家康から洛北・鷹峯の地を拝領し、光悦村と呼ばれる芸術村兼宗教村を創設したことに始まります。「琳派といっても具体的なイメージが湧かないとおっしゃる方がいらっしゃいます。定義できないのが、琳派なのです」と軽快な語り口でレクチャーを始めた河野先生。まずは、琳派とは何かを知るべく、歴史を紐解いていくことになりました。「狩野派とは異なり、琳派の画家たちは前の世代から直接の手ほどきを受けることができませんでした。ですから、先人が残した作品からインスピレーションを得て、新しい芸術をつくり出すことになりました。つまり、琳派とは流派ではなく、浮世絵などといったひとつのジャンルを指すのです」。
 そして、琳派最大の特徴として「生活のなかの美術」が挙げられます。「美術というと、ルネサンス以降の純粋美術をイメージしますが、屏風や襖絵などからもわかるように、琳派は生活美術としての要素が強かった。たとえば、西洋美術のように、リアリズムや遠近法、明暗法を入れると、むしろ生活を圧迫するものになってしまいます。ですから、単純でシンプルなデザインであることが重要だったのです。琳派こそ、日本の美の象徴であるといえるでしょう」。400年経った今でも見る人の心をひきつけている理由を明かしてくださいました。

 レクチャーの後半には、本展に出品している作品解説をしてくださいました。京都・建仁寺蔵、俵屋宗達画による《風神雷神図屏風》については「風神も雷神も千手観音の眷属ですが、あえて千手観音を描きませんでした。仏教の主題を人間的に表現していることが、絵画史上、きわめて重要な意味があります。また、屏風は風を防ぐものですが、こうしたファニチャーが国宝に認定されていることも、日本美術の特徴が見られます」と解説。河野先生ならではの解釈と巧みな話術で、“定義のない”琳派の実像を垣間見ることができました。

 「実際に作品を見るときは、私の話したこと、あるいは本で読んだことは一切忘れて自分の目で絵を見る。それが肝要です。絵のなかに自分を溶け込ませ、感情移入する。たとえば、自分が風神になったとしたらどういう気持ちになるか、雷神が自分の友達ならば誰にしようかというように絵を見ると非常に楽しくなると思います」という言葉で締めくくってくださった河野先生。桃山時代に院政期の美を復興させ、日本におけるルネサンスを行った琳派。脈々と受け継がれる日本の精神、そして日本の美の素晴らしさを再認識させてくれる貴重な時間となりました。

[FIN]