「これは書物か、絵本か、玩具か。―世界の仕掛け絵本の変遷と進化を探る―」

銀座MMMで3月まで開催されていた「世界の仕掛け絵本特集」にちなみ、3月11日にレクチャーが行われました。日本における仕掛け絵本の第一人者である本庄美千代さんを講師にお招きし、歴史とその魅力について迫りました。

 会場の机の上には数々の美しい仕掛け絵本が飾られており、参加者の皆さんの期待感も高まっている様子です。この日、講師には、武蔵野美術大学美術館・図書館 研究担当司書であり、これまでさまざまな仕掛け絵本の展覧会を企画している本庄美千代さんをお招きしました。同館では、西洋から日本のものまで、500点もの仕掛け絵本を所蔵しています。「武蔵野美術大学美術館・図書館では、美術デザインの研究資料として何十年もかけて仕掛け絵本を収集してきました。とくにわが国において、絵本という分野は児童文学という領域で語られ、研究されてきましたが、美術やデザインを専門的に扱ってきた私から見ると、仕掛け絵本は実験的なグラフィックデザインともいえると思います」。

 そもそも“仕掛け”が誕生したのは、13世紀頃のこと。主にキリスト教の祝祭日、祝い事などを決めるための宗教的な道具だったといいます。しかしながら、その後発展せず、イタリアでルネサンスが花開いた17世紀中頃になり、ようやく“仕掛け”の世界が大きく前進します。というのも、ルネサンスは科学の発展の時代でもあり、仕掛けにとっても必要な遠近法が確立されたからです。それは日本美術にも大きな影響を与えており、「遠近法を用いた仕掛け装置が日本に伝わらなければ、江戸時代の浮世絵も誕生しませんでした」と本庄さんは語ります。こうした身近なエピソードを織り交ぜた丁寧な解説に、ぐいぐい引き込まれていきました。

 そして、1771年、いよいよ仕掛けを利用した絵本が登場します。それはイギリスの出版者ロバート・セイヤーがつくった簡単な絵本でした。フラップをめくることで視覚表現が変わるというハーレクイン(道化師)を主役にしたもので、これがロンドンで爆発的なヒットを生みました。後に仕掛け絵本がハーレクイナード(道化)と呼ばれるようになるのは、彼の作品にちなんでのことといいます。さらに19世紀後半に黄金期を迎えた仕掛け絵本は、ヨーロッパでは実用書、手引書、学ぶための教科書として使われ、さらにアメリカにも渡って発展していきました。“仕掛け絵本の父”と呼ばれるドイツのロタール・メッゲンドルファーが登場するのもこの頃のことです。ピボット(回転する軸)とリベット(上下運動)を活用した、ひとつのタブで数箇所の絵が動くという画期的なもので、スライドでその作品が紹介されると会場からも笑い声が漏れました。
「絵本の二次元の世界に新たな時間と空間を与えたもの、それが仕掛け絵本だと思います。今日は、デザイン的な視点からご紹介しましたが、またこれが別のお立場の方から見るとまた違った仕掛け絵本の見方が楽しめるのではないかと思います」。
 その言葉通り、本庄さんのコレクションを触った方からは「子どもにぜひ見せたい!」「部屋に飾っておきたい!」といった声も聞かれました。奥深い仕掛け絵本の世界を、もっと味わいたいと思わせてくれるひと時となりました。

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