「フランスにおける文化としての映画、そしてロメール作品にみるフランス人とフランス―ゆかりのシャンパン、ワインとともに味わう」

フランス映画の恋愛喜劇の巨匠、エリック・ロメール監督(1920-2010)。5月21日より、東京・角川シネマ有楽町では、「ロメールと女たち」と題した特集上映を開催。MMMレクチャーでは、映画批評家の石橋今日美さんを講師にお招きし、ロメール作品の背景と魅力をお話しいただきながら、シャンパンやワインも楽しめる講座を開講しました。

 『モード家の一夜』、『満月の夜』、『緑の光線』など、哲学的なテーマの中で美しい女性を描き続け、ヌーヴェルヴァーグの兄貴的存在として親しまれたロメール監督。コアな映画ファンには魅力的な講座だけに、参加された方々の表情からも期待感溢れる様子が伝わってきます。PAULの焼きたてのパンの香りが漂う中、カンヌ映画祭の公式シャンパーニュ「パイパー・エドシック」で乾杯して、レクチャーが始まりました。

  講師の石橋さんは2004年、フランス・パリで行われたロメール監督の講演会を訪れたことがあるといいます。「初恋の人に会うような感じでドキドキしました。登壇された時にはお年を感じて涙が出そうになりましたが、


左がロメール作品ゆかりの南仏ワイン。右がシャンパーニュ「パイパー・エドシック」

ひとたび口を開いて映画論のお話をされると、まったく衰えを感じさせることもなく、すごく安心したのを覚えています」と石橋さんの言葉からはロメールへの愛が伝わってきます。作品映像を観る前にまずは、ロメール作品の特徴である「ロメールとテロワール」についてお話を始められました。「テロワール」とはワインの味に現れるぶどう畑の気候や環境、土壌のことです。「ロメールの場合のテロワールは、作品の舞台と出演する俳優だと思います。ロメール自身、『嵐の海にいる船乗りのように、偶然に身を任せる』と公言していますが、自分が無理やりコントロールするのではなく、光、風、土地の特性を生かし、偶然に任せて映画を撮影していくのです」と石橋さん。また、「ひとつのイメージを別のイメージで隠す」というのが作品のカギになっているとも明かします。「たとえば、ロメールの映画では出演者たちが意味のない会話をたくさんしています。裏を返せば本当に重要なことは、映し出されているフレームの内ではなくて、外で起こっていることが多いことを示しているのです」。


講師・石橋今日美さん

 こうした石橋さんの丁寧な解説を受けてから、その後、実際に会場で映し出された『満月の夜』『緑の光線』『海辺のポリーヌ』の映像を観ると、これまでとは違ったロメール映画に出会うことができました。
 「ロメールの映画は、海の色が日々違うように、自分の観る年齢によって見方が違ってきます。強い個性がない分、その時々で『面白い!』って思える部分がものすごく豊かにあると思うんです。ロメール映画は、寛容さや観る人の心に寄り添ってくれる瞬間があると思うので、ぜひご覧になって違う発見をしていただけたらいいなと思います」。
 石橋さんが解説をしてくださった音やショットに対するロメールならではのこだわりも大きなスクリーンだからこそ理解できるはず。ロメールの特集上映「ロメールと女たち」は6月10日までですので、ぜひ映画館に足を運んでみてください。
角川シネマ有楽町:http://www.kadokawa-cinema.jp

[FIN]