≪ひとつの美術館≫にとどまらないポンピドゥー・センターの魅力と秘密

東京都美術館で開催中の「ポンピドゥー・センター傑作展―ピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで―」。7月号では展覧会の様子をレポートしていますが、開幕を3日後に控えたこの日、MMMでは本展の監修者、クレール・ガルニエさんをお招きし、ポンピドゥー・センターの魅力と出展作品についてたっぷりお話しいただきました。

 ニューヨーク近代美術館、イギリスのテート・モダンと並び、世界有数の近現代美術館と称される、パリのポンピドゥー・センター。同館は、1906年以降の作家6000人の作品を約10万点所蔵する国立近代美術館を中心に、公共情報図書館、映画館、劇場、音楽研究所、教育活動用のスペースなど、さまざまな機能を持つ総合文化施設です。
 現在はパリ・ピカソ美術館のコレクション・企画部門副部長のクレールさんですが、数年前まではポンピドゥー・センター・メッス分館館長補佐の任にありました。ポンピドゥーを熟知した講師のお話をうかがえる機会とあって、レクチャーには多くの方々にお集まりいただきました。

 ポンピドゥー・センターの歴史は、1977年から始まります。当時のフランス大統領、ジョルジュ・ポンピドゥーが、「パリに20世紀初頭のような活気を取り戻したい。現代アートの中心となる文化センターをパリに作ろう」と発案したことで誕生。今でこそ“建物自体が芸術作品”と言われますが、当時はむき出しのパイプやチューブ状のエスカレーターなど前衛的な外観がパリの街並みに合わないと物議を醸しました。しかし、「逆に大統領はパリがモダンな街であることを世界に向けて発信したかった」とクレールさんは語ります。
 こうした背景を踏まえた上で、お話は展覧会の見どころについて進んでいきました。本展は、「1年1作家1作品」をテーマに、1906年から1977年までのフランス20世紀美術を辿ることができる内容となっています。「ポンピドゥーのコレクションがスタートする1906年は、フォーヴィスムが現れて芸術界に革命が起きました。そして1977年には新しい文化センターが誕生するという革命。時を軸にして、毎年どのような革命があったか、その変遷を紹介したいと考えました」と説明。さらに、展示される70点の作品は、すべてフランスに縁のある作家、もしくはフランスで制作された作品だとか。「ポンピドゥーはフランスにあるため、その部分を強調しつつ、ポンピドゥーのエスプリを見せたかったのです」。


▲クレール・ガルニエさん

 その後、本展を鑑賞する上で参考になる作品の解説もしてくださいました。中でも、「梱包芸術」の代表者、クリストの《パッケージ》については、「日本初公開となるこの作品は、クリストにとって初めての作品。妻のジャンヌ=クロードとともにその後、このような作品を生み出していきますが、中に何が入っているかは、作家以外誰も知りません。この作品では消費主義、消費社会に対する問いかけをしていると考えられます」とクレールさん。難解なイメージの強い現代アートも、丁寧な解説により身近に感じることができました。
 「世界的に有名な傑作はもちろん、その時代に大きく影響を与えた作品、忘れ去られた作品、再発見したい作品など、学際的な展示になると思います。展覧会に足を運んで、ぜひ本物を見てほしいと思います」。
 展覧会は9月22日(木・祝)まで。今までにない演出方法や驚きの仕掛けも施されている本展に、ぜひ足をお運びになってみてください。

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