映画「男と女」―時代を経ても色あせない魅力をシャンパンとともに―

「ダバダバダ〜」の音楽でも有名なクロード・ルルーシュ監督(1937-)による映画『男と女』。製作50周年を記念し、10月15日よりデジタル・リマスター版が東京をはじめ、全国で順次公開されます。MMMレクチャーでは、映画批評家の石橋今日美さんを講師にお迎えし、シャンパンを楽しみながら、本作の魅力についてお話いただきました。

 フランスの恋愛映画の金字塔との呼び声高い『男と女』。アカデミー賞外国語映画賞およびオリジナル脚本賞、カンヌ国際映画祭パルムドールとさまざまな賞を受賞した本作は、日本公開から今年でちょうど50周年を迎えます。今回の講座では50年を経てもなお衰えないその人気についてお話をうかがいました。カンヌ映画祭公式シャンパーニュであり、ルルーシュ監督も愛飲したといわれる「パイパーエドシック」で乾杯してレクチャーが始まりました。

 まずはじめに石橋さんは、映画が製作された当時の文化的・社会的背景をお話してくださいました。「1960年代は世界が激動した時代。フランスでは、ベビーブームの世代が大学生になり若者文化が台頭しました」と説明。こうした時代背景を踏まえたうえで、本作の魅力が分かるシーンを見ていくことになりました。ルルーシュ監督の映画は、「音楽が非常に重要な役割を持っている」と石橋さんは話します。それには監督の生い立ちと経験が深くかかわっているようで、「フィーリングや雰囲気を、観客により強く訴えかけるには、言葉で説明するよりも、音楽が有効的というのが彼の方法論。ですから、説明的に台詞を入れるのではなく、一貫して音楽で見せるスタイルをとっているのです」と解説してくださいました。

 さらに、映像の面から本作を“解剖”。モノクロとカラーの美しい映像が交互に出てくるのが本作の特徴のひとつでもありますが、この撮影方法にはある理由があったといいます。「ルルーシュは前の作品で失敗し、多大な借金がありました。当然カラーはお金がかかるので、最初はモノクロで撮影をしていたそうです。ところが、知り合いの製作者が援助してくれたことで、一部カラーでの撮影が可能になります。しかし、カラーの撮影機材が大変うるさく、台詞の録音ができなかった。ですから、基本原則として、外のシーンはカラーで撮り、室内はモノクロのカメラで撮影しているのです」。さまざまなエピソードを絡めた石橋さんの作品解説によって、作品の背景が徐々に明らかとなっていきます。

 しかし、当時は、批評家からの評判があまりよくなかったとか。ではなぜ本作が世界中で受け入れられたのか、最後にその理由を石橋さんは解き明かしてくださいました。「フランス映画は難解というイメージが強いですが、この作品には、アメリカ人でも日本人でも入りこむことができる明快さ、若さ、エネルギーが満ち溢れています。そして、ハリウッド映画でもよく使われる手法で、最後の最後に主人公が救済される『ラスト・ミニッツ・レスキュー』がこの映画にもある。フランシス・レイが作曲したキャッチーな音楽も相まって、何度でも見たくなる作品に仕上がっているのだと思います」。石橋さんならではの解説に、参加者の皆さんは『男と女』の世界観にぐいぐい引き込まれていった様子でした。
 音と映像が美しく生まれ変わったデジタル・リマスター版『男と女』。このレクチャーを思い返しながら本作をぜひ観たいと感じた一夜でした。
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