“暮らしとアート”を探る旅‐作家・宇田川悟のヨーロッパレポート @フランス/シャンパーニュ地方、アルザス地方

ヨーロッパ各地のミュゼを取り上げながら、その土地の暮らしや文化について紹介するシリーズ講座「“暮らしとアート”を探る旅」が4月21日、開講しました。講師にお迎えしたのは、20年以上もフランス・パリで生活し、世界の文化にも造詣が深い作家の宇田川悟氏。第1回講座では、フランスのシャンパーニュ地方とアルザス地方のミュゼをご紹介いただきながら、MMMセレクトの珍しいワインも楽しめる内容となりました。

 フランス政府農事功労章シュヴァリエ受賞ほか、ブルゴーニュワインの騎士団、シャンパーニュ騎士団、フランスチーズ鑑評騎士の会などに叙任された宇田川氏の講座とあって当日は、フランスの食文化を愛する多くの方々にお集まりいただきました。まずはじめに、参加者の皆さんに配られたアルザスの赤・白ワインの説明から始められました。
「フランス暮らしが長かったので、ワインとフランス料理に関しては他人よりも何十倍も食してきた自負があります。日本に入っているワインの半分はボルドー、その次がブルゴーニュですので、圧倒的にアルザスワインの知名度は低い。しかし、フランスでは食前酒に飲むワインというイメージもあって、非常に飲みやすいものなのです」

 ワインを手にした参加者の皆さんは宇田川氏の説明に大きくうなずきながら、早速その巧みな話術にひき込まれていったようです。続いて、今回の本題であるシャンパーニュ地方とアルザス地方のミュゼについて紹介。まずはシャンパーニュ地方の隣、アルゼンヌ地方のランボー博物館、ヴェルレーヌ博物館について語ってくださいました。
「私はフランス文学が大好きで、(アルチュール・)ランボーと(シャルル・)ボードレールにのめり込んだ時期がありました。フランスの詩人といえばフランソワ・ヴィヨン、ボードレール、ランボー、(ポール・)ヴェルレーヌ、(ステファヌ・)マラルメ、(ギヨーム・)アポリネールらが代表格。中でも“早熟の天才”や“言葉の錬金術師”など、数々の異名を持つランボーに対しては私自身、特別な思い入れがあります」
 1854年に、アルゼンヌ地方のシャルルビルで生まれたランボーは、17歳のときに象徴派の詩人ヴェルレーヌに詩を送ったことがきっかけで、パリに招かれました。しかし、礼儀も知らない無作法ものゆえに、“恋人”のヴェルレーヌくらいしか彼の理解者はいなかったと言います。ヴェルレーヌとの別離後は、『地獄の季節』などを執筆するも20歳で詩を書くことを止め、アフリカに渡って武器商人に。しかし、骨肉腫悪化のために再びフランスに帰国、37歳の若さで死去しました。そんな数奇な運命をたどったランボーやヴェルレーヌの人生を熱く語ってくださるとともに、日本人が訪れることが少ないアルザス地方の小さな美術館・博物館についてもスライドで解説してくださいました。そのお話の中でとくに印象深かったのは、なぜ人々は美術館・博物館に魅了されるのかについて。

「都会の喧騒の中にあっても美術館・博物館に入ると、静謐な時間が流れている。なぜかと考えると、アーティストらが残した記憶や思い出など抽象的なものが形になって展示されているからです。そこには、もしかしたら怨念や執念もあるかもしれない。結論として、人間を蘇生する、原始的な力が非常に満ちている空間なのではないかと思います」
 未来の世代につなげていく“タイムカプセル”の意味も持つという美術館・博物館。文化への意識が高いフランスでの生活が長かったからこそのさまざまな見解に、深く納得させられる時間となりました。

 

※6月開催の「宇田川悟のヨーロッパレポートA南仏のミュゼ」 は現在お申し込みが満席となっております。
  9月開催予定のシリーズ最終回は8月に募集を開始いたします。 どうぞご了承のほどお願いいたします。

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