ボイマンス美術館所蔵  ブリューゲル『バベルの塔』展
「16世紀ネーデルラントの至宝―ボスを超えて―」連携講座

 現在、東京・上野の東京都美術館で開催中の『バベルの塔』展。世界に40点余りしか残されていないというブリューゲルの真作、しかもその最高傑作のひとつである《バベルの塔》が来日するとして、話題の展覧会です。今回は、その学術監修を務められた高橋達史さんを講師にお迎えして、ブリューゲル、そして《バベルの塔》の魅力についてお話いただきました。

 今年度、もっとも注目を集める展覧会のひとつとして、多くの人々が待ちわびる中、幕を開けた《バベルの塔》展。開幕から1ヵ月ほどたって開催されたこのMMMレクチャーも会場は満席。今回の展覧会に寄せる皆さんの関心の高さが伺えます。

 ご登壇された高橋さんは、今回の『バベルの塔』展の学術監修のみならず、24年前に《バベルの塔》が来日した際のボイマンス美術館展の監修も務められたブリューゲルの専門家です。レクチャー参加者に配られた詳細かつボリュームのある資料からも、高橋さんのブリューゲルへの情熱が伺え、期待が高まります。

 レクチャーは2部構成。第1部は「ブリューゲルは『ボスの再来』だったのか?」です。高橋さんは「ボスとブリューゲル、どちらがえらいかと問われれば、これは好みの問題としかいいようがありません」と前置きをしたうえで、ボスとブリューゲル、それぞれの特長についてスライドを交えて解説を始められました。「ボスはミクロがあってマクロのない画家なんです」という高橋さんの言葉のとおり、確かに、《快楽の園》を見ると、画面いっぱいに人間やさまざまな奇妙な動物が鮮やかな色彩で描かれたこの作品で、主役となる場面はどこにもありません。「奇抜なパビリオンのあるテーマパークみたいですよね。ボスの天才的なところはこの色彩です。色彩感覚が他の画家とはまったく違うんです」。そして一方のブリューゲルは、「地に足がついた人」で現実に即した画面構成をしていったのだと言います。ボスとブリューゲル、それぞれの作品に登場するモンスターの描き方の違いによるふたりの差異を明確に、楽しく解き明かしてくださる解説に、会場からも「おお〜」と納得の声が上がりました。

 第2部は、「《バベルの塔》を通じてブリューゲルが伝えたかったこと」。いよいよ今回の主役、《バベルの塔》の魅力へと迫っていきます。高橋さんは、「ブリューゲルの世界のすごさは、『マクロ(迫力ある巨視的構図)』とミクロ(徹底的な細密描写)の融合」にあります」と話します。そして、《バベルの塔》の細密描写を、今回の展覧会の展示の目玉のひとつである超拡大画像で見ながら、解説を続けていきます。その描写はまさに超絶技巧。そしてその細部から成る巨大な塔。確かに「マクロとミクロ」の見事な融合です。なんと《バベルの塔》は、肖像画を除けば画面における“主役”の占有面積のもっとも大きい作品なのだそうです! 次々に飛び出す“おもしろネタ”を前に、参加者の皆さんが熱心にメモを取られている様子が印象的でした。

 誰が見てもきっと「すごい」と感じるであろう、ブリューゲルの傑作《バベルの塔》。その「すごい」の訳を深く知ることのできたレクチャーでした。

 展覧会は7月2日まで。ぜひ皆さまも、ブリューゲルの「マクロとミクロの融合」を間近でご覧になってみてください。

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