奇想に込めたリアル、絵画のなかの密やかなトリック

現在、東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムでは「ベルギー奇想の系譜─ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで」が開催中(9月24日まで)。そして2018年1月6日からは「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」が始まります。このふたつの展覧会にちなみ、おふたりの講師をお招きしてのアートレクチャーが、8月25日に行われました。

 今回のレクチャーは、通常のアートレクチャーとは異なる3部構成。第一部の講師は、現在開催中の「ベルギー奇想の系譜─ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで」のキュレーションを手がけられたBunkamura ザ・ミュージアムの廣川先生です。
「現在のベルギーとその周辺地域が美術史において重要な地位を築くのは、14世紀末期から15世紀にかけてのこと。まずは初期ネーデルラント美術と言われる美術の作品を見ていきましょう」廣川先生は、こうして、「ベルギー奇想」500年の歴史を、丁寧に紐解いていきました。

 まずスクリーンに映し出されたのは、ヤン・ファン・エイクの傑作《ロランの聖母》。「ドイツの美術史家パノフスキーは、ヤン・ファン・エイクの作品を称して、『顕微鏡と望遠鏡を用いたような効果がある』といいました。ファン・エイクは、当時、新しい技法であった油彩技法を駆使して、聖なる主題に現実的枠足組みを与えることで、信仰心をかきたてるような作品を描いたのです」確かに、遠方の細部まで描き込まれた精緻な描写には、驚かされます。
 その後、廣川先生は展覧会の出品枠を中心に、ボスやブリューゲル、ルーベンス、クノップフ、そしてヤン・ファーブルとベルギー美術の巨匠たちの作品をテンポよく説明していきます。「ベルギーは、長い歴史の中でさまざまな国の支配下に置かれたことで、多様な文化を許容する豊かな土壌が形成されました。そして、たくさんの戦いの舞台となったこの地には、死の表象というものが常に見え隠れしていた、というふうにも感じることがあります。」という廣川先生の説明を聞き、500年という歴史の流れの中で、脈々と受け継がれてきたこの地ならではの美の系譜というものを、再認識させられました。

 そして、第二部は「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」に出品予定のアルチンボルドの作品にちなみ、「顔という観点から見た美術作品の面白さ」をテーマに、東京大学名誉教授で、「日本顔学会」の発起人代表をつとめる原島先生にご登壇いただきました。
 開口一番、「皆さん、顔ってなんだかわかりますか? どこまでが顔で、どこからが頭かわかりますか?」という問いかけで、会場の笑いをさそった原島先生。洒脱なユーモアを交えつつ、「美術作品のメインテーマ」である「顔」についてお話くださいました。工学がご専門で「美術は皆さんのほうが詳しいくらいでしょう」とおっしゃる原島先生ですが、お話を伺うとやはり美術にも造詣が深く、なかでも、「アルチンボルドの肖像画は、顔を描いた肖像画であると同時に博物画的要素も、静物画要素もある」というお話には、会場の皆さんもたいへん興味を覚えておられる様子が伺えました。
 おふたりとも盛りだくさんの内容で、第三部、参加者の方々からのご質問。投げかけられた質問をきっかけに、豊かに展開するおふたりのお話に、皆さん、最後まで熱心に耳を傾けられていました。

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