アンティーク・ブックの魅力と蔵書票の楽しみ―時代を超えて引き継がれるその美しさを暮らしに―

MMMで開催中の「見るだけでも楽しいアンティーク・ブックの楽しみ―活字見本帳から蔵書票まで―」(11月7日まで)。この特集にちなみ、MMMレクチャーでは、オーストリア・ウィーンで3代続くアンティーク・ブックの店「シュタインバッハ書店」のオーナー、ミヒャエル・シュタインバッハ氏を講師にお招きし、アンティーク・ブックの魅力と蔵書票の楽しみ方についてお話しいただきました。

 今回の講師、シュタインバッハ氏は、ご自身でアンティーク・ブック店を経営するかたわら、2011年に丸善日本橋店にオープンした洋古書専門店「ワールド・アンティーク・ブック・プラザ」の総支配人も行うなど、世界中でアンティーク・ブックの魅力を伝えている“アンティーク・ブックの伝道師”です。まずは、アンティーク・ブックとは何かを知るべく、歴史を紐解いていくことになりました。
「アンティーク・ブックに細かい定義はありませんが、何十年もの時を経て、その定義は変化を遂げています。今日では、古いものが必ずしも希少ではなく、21世紀のものでも入手が難しく、価値があるものがあります。また、アーティストの本は限定で出版されることが多く、マーケットに出た瞬間から希少なものとされます」

 そもそも印刷技術はアジアで発明され、7世紀頃には木版印刷が行われていたといわれています。その中で大きな転機となったのは、1450年にヨハネス・グーテンベルクによる活版印刷技術の発明です。油性インキ、印刷機などを開発して、大量印刷が可能になり、希少な本を扱うブックセラーもこの頃、誕生しました。
「彼らは旅する商人であり、修道院、大学、教育機関の隣に開かれたマーケットで本を販売していました。ヨーロッパにおいて公で行われた初めての本の販売は、16世紀にベルギーの首都で行われたブックオークション。その100年後には、初の蔵書目録がヨーロッパの顧客に提供され、アンティーク・ブックが販売されるようになりました。アンティーク・ブックがビジネスとして本格的に展開したのは19世紀後半からで、1920年〜30年以降になると大きく成長しました」

 また、コレクションにもトレンドがあるそうで、社会的背景だけでなく、国や世代によっても変化するとか。「ここ20年の傾向として初版本や直筆サイン、読者に向けたメッセージなど、付加価値を求める傾向にあります。たとえば、ピカソやバウハウスの作家のイラスト、印刷物、映像は、直筆サインの有無で価値が大きく変わります。希少な本というのは読むというだけでなく、所有することに喜びがあり、アート作品と同じように扱われるのです」とシュタインバッハ氏は明かします。さらに、収集を考えている方たちに向け、「自分の財産を使い、コレクションをしたいと思うなら、本当に自分の好きなもの、自分の心が欲するもの、喜びや満足感が得られるもの、意味をもたらすものを選んでほしい」とアドバイスをくださいました。
 続いて所有者の名前や紋章など、本の所有者を示す蔵書票について解説。紀元前1391年から1353年、古代エジプト第18王朝のアメンホテプ3世が所有していた本に使われたマークがもっとも古いもので、15世紀になると、現在見られるような象徴的かつ装飾的な蔵書票が作られるようになったそうです。ルーカス・クラーナハやアルブレヒト・デューラー、ハンス・ホルバインらも若い頃、デザインを行っており、名だたる巨匠たちが蔵書票を手掛けていたことに、参加者の皆さんも関心を持たれている様子でした。

「本は手に取って楽しむものですから、まずは本屋に足を運んでいただきたい。自分の好きな分野があると思いますが、それ以外のところも関心を持つようにすると、新たな発見があったり、古い本にも興味が湧いたりするでしょう。アンティーク・ブックのコレクションは、お金持ちの趣味と思われがちですが、非常にリーズナブルなものもあるので、カジュアルな気持ちで接してください」
 その言葉通り、シュタインバッハ氏のコレクションやウィーンから持ってきていただいた蔵書票を手に取った参加者の方々の眼差しは真剣そのもので、すっかり魅了されている様子が伝わってきました。アンティーク・ブックと蔵書票の世界を知り、秋の夜長、じっくり楽しんでみようと思わせてくれる一夜となりました。

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