「フェルディナント・ホドラーとは?いま、なぜホドラーか」

日本・スイス国交樹立150年を記念して、東京・上野の国立西洋美術館で開催中の「フェルディナント・ホドラー展」。今月のMMMレクチャーでは、その担当学芸員の新藤淳氏を講師としてお迎えし、ホドラーの魅力を紐解く講座が開催されました。


▲今回のフェルディナント・ホドラーの作品が並ぶ講座案内

  今回の講座のテーマとなったフェルディナント・ホドラーは、母国スイスでは「国民画家」として広く愛されている存在です。しかし、日本での回顧展はじつに40年ぶり。まだまだ馴染みの薄い画家のひとりといえるでしょう。  

  「ラファエロ展なんかですとたくさんのお客さんに来ていただけるのですが、ホドラー展の入館者数は非常に控えめなんです」。今回の講師、新藤さんのこんなざっくばらんなお話からレクチャーは始まりました。「展覧会は今、二極化しているのかもしれませんね。そういう意味では、このホドラー展も、国立西洋美術館だからこそできた展覧会です」。

 いわば、国立の西洋美術館としての使命を持って、開催された今回のホドラー展。その担当学芸員である新藤さんは旧来のホドラー像について、いくつもの疑問を投げかけます。たとえば、ホドラーには“多くの死に直面し、暗鬱な絵を描いた孤独な男”といったイメージがあります。ところが、「じつは、ホドラーは自己演出という側面が非常に強い画家だったんです」と新藤さん。日本には、明治時代の雑誌『白樺』を通じて入ってきた、どこかロマンチックなホドラー像がありましたが、それは必ずしもホドラーの実像ではなかったようです。


▲今回の講師、ホドラー展の担当学芸員を務めた国立西洋美術館研究員の新藤淳氏

 「“自然を愛した画家”というのもどこか違う気がするんです。ホドラーはカンヴァス上で操作可能な対象として自然を見ています」。オイリュトミー(美しい調和)を生涯追求したホドラー。新進気鋭の研究者ならではの鋭く冷静な視点で、これまでにないホドラー像が語られていきました。さらに、お話の最後には、作品の搬入や展示の様子など、普段は見ることのできない“展覧会の裏側”までご紹介いただきました。
 会場では皆さん、とても熱心に聞き入っておられましたが、それもそのはず、新藤氏が「ホドラーという画家をご存知だった方?」と尋ねたところ、半数以上の方の手が挙がり、中にはなんと40年前のホドラー展にも足を運んだという方もいらっしゃったのです。そんな“美術通”の方々にお集まりいただいた今回のレクチャー、質疑応答の時間にも、熱心なご質問が相次いでなされました。

 上野のホドラー展もあと少しで閉幕。東京開催の後は、神戸の兵庫県立美術館に巡回します。2015年1月24日(土)〜4月5日(日)まで。未見の方、ぜひ、足をお運びになってみてください。

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