惣領冬実が語る、ヴェルサイユ宮殿とマリー=アントワネットのすべて

東京・六本木の森アーツセンターギャラリーでは、2017年2月26日(日)までヴェルサイユ宮殿企画監修のもと「マリー=アントワネット展 美術品が語るフランス王妃の真実」を開催中です。本展にちなみMMMでは、マリー=アントワネットにまつわるマンガを出版された惣領冬実先生を講師にお招きし、王妃やヴェルサイユ宮殿の魅力、作品制作の裏話などを熱く語っていただきました。

 2016年9月にマンガ『マリー・アントワネット』と『マリー・アントワネットの嘘』(ともに講談社)を出版された惣領先生。今回、惣領先生のお話をうかがえる貴重な機会とあって、大勢のファンの方々にお集まりいただきました。まずは、史上初、ヴェルサイユ宮殿からの依頼を受けた『マリー・アントワネット』の執筆の経緯についてお話しくださいました。「そもそもの話の始まりは、ヴェルサイユ宮殿側が自国の歴史を知らないフランス人が増えていることを危惧しているということでした。そこでヴェルサイユ宮殿をできるだけ史実に忠実に広める手立てはないかとのことで、最終的に(ルネサンス期に活躍したイタリアの英雄)チェーザレ・ボルジアの歴史マンガを描いている私に依頼が来たというわけです」。(惣領先生)

 フランスでも独自に発展してきたマンガ文化「バンド・デシネ(BD:ベーデー)」もありますが、BDでは忠実に再現することができないというヴェルサイユ側の思いがあったようです。「ヨーロッパでは、日本のマンガは一部のコアなファンにもてはやされているだけで、幼稚、俗悪だと思われています。私はこれを機に、そういう偏見を捨ててもらい、種類が豊富でレベルの高い日本のマンガ文化をフランスで広めたいと思って、この依頼をお引き受けしました」とこの作品にかける思いを語ってくださいました。
 続いて、惣領先生が描いた作品と実際のヴェルサイユの写真を交互に見せながら、衣装、建築、調度品、王宮儀礼など、忠実に再現するための秘話を明かしてくださるとともに、王妃にまつわる多くの歴史の嘘を暴いてくださいました。
 「皆さんご存知だと思いますが『パンがなければお菓子を食べなさい』もねつ造です。当時のフランスでは1級の麦がパンとして、下級の麦が主食でないものを作るために使われました。ある貴婦人がこの発言をしたそうですが、当時マリー=アントワネットはまだオーストリアにいてわずか5歳。言えるわけがありません。しかし、最後の裁判の時に彼女が外国人だからということもあって、すべて彼女のせいにされてしまい、事実として世界中に広まってしまいました」


マリー=アントワネットの紙ドレスとのツーショット

 そもそも、ルイ16世もマリー=アントワネットも、開かれた王室にしたいと考えていたとか。好き勝手やりたい周囲の貴族たちにとっては、二人はまさに目の上のたんこぶだったのです。
 「身内の貴族に根も葉もないうわさ話を流されても、まさか自分たちが処刑台に上るなんて思ってもいなかったと思います。マリー=アントワネットはそんなヴェルサイユが嫌で与えられた離宮プチトリアノンに引きこもっていましたが、パリにいればこんなことにはならなかったでしょうね。運の悪いことに飢きんが続いた。それもすべて王家のせいにされ、さらに国王一家の国外逃亡があり、こうして王家の信頼は失墜していったのです」
 そのほか、マリー=アントワネットの恋人フェルセン伯爵についても言及されるなど、これまでたくさん出版されているマリー=アントワネット関連の本にはおそらく書かれていないようなエピソードを次々と披露。参加者の皆さんも当時の様子を目の当たりにしているような感覚で熱心に聞き入っておられました。最後はお楽しみのサイン会です。素朴な質問や難しいお願いにも答えてくださる気さくで誠実なお人柄に、マリー=アントワネットだけでなく、惣領先生にもすっかり魅了された一夜となりました。

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