「セザール―ジャン・ヌーヴェル による名品集」
 
 
 
フランス人彫刻家セザールへ捧げる
没後10周年のオマージュ
建築家ジャン・ヌーヴェルが選んだ作品群を楽しむ
 フランスの現代彫刻家セザール・バルダッチーニ(1921-1998)は、日本ではあまり馴染みのないアーティストかもしれませんが、フランス国内でもっとも権威のある映画賞である「セザール賞」といえば、ご存知の方も多いのではないでしょうか? この映画賞で贈られる四角い独特の形をしたトロフィーを制作したのが、今回ご紹介するセザールです。
  「セザール―ジャン・ヌーヴェルによる名品集」
CÉSAR Anthologie par Jean Nouvel
25×29cm/190ページ
フランス語/刊行2008年9月8日
   
 今月の一冊は、フランスを代表する現代彫刻家セザールの没後10周年を記念して、カルティエ財団で2008年10月26日まで開催中の「セザール、ジャン・ヌーヴェルによるアンソロジー」展の展覧会カタログ。1921年、マルセイユにイタリア系の両親のもと生まれたセザールは、貧しい暮らしのなかで美術教育を積み、第二次世界大戦後から創作活動を開始しました。高価な大理石やブロンズを入手することは難しい状況で、セザールが目を留めたのは、工場などから出る鉄くずなどの廃棄物。セザールはこうした廃棄物を人物や動物などの彫刻へと昇華させ、その独特の作品群は絶大な支持を受けることになります。
 さらにセザールの評価を高め、その名声を不動のものにしたのが「圧縮(コンプレッション)彫刻」シリーズです。1960年、友人の工場で大型プレス機を目にしたセザールは、自動車をプレス機で圧縮した作品を発表し、彫刻の既成概念を大きく塗り替えることになりました。こうしたコンプレッション作品は、巨大な四角の金属塊に姿を変えた後もなお、さまざまな色彩の断片や部品の一部から、自動車のイメージを強く喚起させ、独特の視覚体験を観る者に与えます。その後もセザールは、自らの指を型取りし、高さ6メートルにもおよぶ巨大な作品に仕上げた≪親指≫などの「拡大」シリーズをはじめ、意欲的な作品群を制作し続けました。
 今回の展覧会では、生前のセザールと深い親交のあった建築家ジャン・ヌーヴェルが展示作品を選び、さらには展覧会会場の構成といった全プランに参加しています。セザールの世界観を熟知した彼が、設計を担当した自身の“庭”ともいえるカルティエ財団を舞台に展開する回顧展は、大きな注目を集めています。
 展覧会カタログには、代表作品「圧縮(コンプレッション)彫刻」はもちろん、観る者の想像力を掻き立てる巨大な≪親指≫などの出展作品のほか、ジャン・ヌーヴェル自身がセザール像とその世界観を語るテキストが収載されています。ページを繰る度に、イマジネーションを刺激される一冊です。