MoMA(モマ)の愛称が世界に定着しているニューヨーク近代美術館。「クリエイト、マインド、インスピレーションの喚起の場」をモットーとしているこの美術館は、モダンアートの領域と定義を追求し、アートで過去と現代をつなぐという大きな役割を担っているといわれています。ピカソやセザンヌ、ゴッホといったヨーロッパの巨匠絵画作品からアメリカ現代美術作品の膨大なコレクションは大きな魅力ですが、それだけではなく1930年代に、いち早く建築・デザイン、映画、家具など従来の芸術分野になかったアートに注目し、斬新な展覧会を開催しています。「フランク・ロイド・ライト展」や数十年続いた若手作家によるシリーズ「プロジェクト」、映画監督のティム・バートン展など、従来の美術館展を超えた多分野への展開がMoMAという美術館を特徴づけているといわれています。
また教育部門にも力を注いでおり、充実したライブラリーをはじめ多様なプログラムを展開しています。学校やグループ単位でのエデュケーショナル・ツアーや年齢や目的に応じた幅広いワークショップにも定評があります。インタラクティヴなファミリー・ツアーも人気。無料のモバイルでの特別展やコレクションのツアーなどが利用でき、まる一日楽しめます。
創設以来何度も増設が繰り返されていますが、2004年には日本人建築家・谷口吉生の設計によって大々的に増築が施され、さらなる前進を果たしました。館内のどこの展示会場にも窓があり、展示鑑賞の目を休ませてくれるだけでなく、マンハッタンという大都市の空気が展示会場につねに漂います。都市と自然、アートが調和する景観で高層ビルの谷間にある小さな中庭は都会の喧噪から解放されるアートなオアシスとなっています。
MoMAは1920年代にL・P・ブリス、C・J・サリヴァン、J・D・ロックフェラー2世夫人という3人の女性によって発案され、1929年にアルフレッド・H・バーJr.により創設されました。教育と、その時代のヴィジュアル・アートの理解を目標に掲げ、モダンアートのみに限定した世界で唯一の美術館となりました。絵画・彫刻部門のみならず、世界で初めて美術館に多分野の芸術部門を構築。建築・デザイン、フィルム・ビデオ、写真部門が開設されました。1939年に現在の53丁目に移転。50年代と60年代にはフィリップ・ジョンソンが増築を手がけ、また都会のなかの彫刻庭園として最も親しまれているアビー・アルドリッチ・ロックフェラー彫刻庭園が誕生しました。
84年にはシーザー・ペリにより大幅に増築され、展示会場が2倍に拡張。89年に美術館の向かい側にMoMAデザインストアがオープンします。2000年には世界唯一のコンテンポラリー・アートのみを展示する美術館PS1と提携を開始しました。2001年から谷口吉生による大々的な拡張計画のため一時閉館しましたが、倉庫を利用した仮設スペースをクイーンズ区に開設。2003年の「ピカソとマチス展」は連日入場制限が行われるほどの盛況となりました。2004年にリニューアル・オープンし、現在広さ58,530平方メートル。敷地西側に新設された6階建てのビルが展示施設となり、庭園を挟んで東側のビルには独立した教育研究センター、アーカイヴ施設、ライブラリー、講堂などに分けられ、天井の吹き抜けが特徴的な建築となっています。現在はマンハッタンのチェルシー地区の遊歩道「ハイライン」を手掛けた建築グループ、ディラー・スコフィディオ+レンフロによるさらなる拡張計画が進行中です。
創立当時はたった一枚のドローイングと8枚の版画作品の寄贈から始まった収蔵作品は現在、絵画、彫刻、ドローイング、版画、写真、建築、デザインを合わせて15万点にも及び、映像作品はおよそ2万2千点、映像作品の静止画は400万点。 収蔵作品の構成は、建築、ドローイング、映像、メディア・パフォーマンス、絵画・彫刻、写真、版画・挿画本・イラストレーションという7部門からなり、それぞれの部門に専門の学芸員が配属されています。
MoMAのコレクションといえば、ゴッホの《星月夜》、ピカソの《アヴィニヨンの娘たち》、マチスの《ダンサー》といったヨーロッパ芸術の巨匠からウォーホルの《ゴールド・マリリン》やジャクソン・ポロックのドリッピング絵画作品などアメリカ現代美術作品群といえますが、アメリカ人写真家ダイアン・アーバスやアーヴィング・ペンなどを含む膨大な写真コレクションや、ヘリコプターや家具、家電品デザインの収蔵品はアメリカの伝統的な美術館の常識を超えたコレクション・コンセプトとしてMoMAを特徴づけています。そして「現代(コンテンポラリー)」と「近代(モダン)」の違いを定義づける作品群も充実しています。ジェフ・クーンズやフェリックス・ゴンザレス=トレスなどこれまでの彫刻や絵画作品の域を超えたマルチメディアやパフォーマンスなどの多様化する表現の作品群にはまさに現代の声が反映されており、小学生からのエデュケーショナル・ツアーはここで主に開催されています。
Update : 2014.5.1
文 : 梁瀬薫(Kaoru Yanase)
ニューヨーク在住美術ジャーナリスト/評論家、国際美術評論家連盟評議員/
中村キース・ヘリング美術館顧問
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