『ドガ  彫刻』


『ドガ 彫刻』Degas Sculptures
撮影:フランク・ホーヴァット
序文:アンヌ・パンジュ
25.5×32.5cm/212ページ
フランス語/刊行1991年
価格/30,132円(税込)

MMMでは海外書籍のお取り寄せも承っております。

ドガの没後、アトリエで発見された
彫刻群を収めた一冊

バレエの踊り子や競馬などをテーマに近代都市パリの情景を切り取り、当時の前衛美術を牽引した画家エドガー・ドガ(1834-1917)。日本国内では実に21年ぶりとなるその大回顧展が、現在横浜美術館で開催中です。《エトワール》や《バレエの授業》をはじめ、国内外の約120点が集う今回のドガ展ですが、ドガの没後に鋳造された彫刻群を集めた最後の展示室も見どころのひとつです。

1880年以降、次第に視力を失っていったドガは、晩年はほとんど作品を発表することもなく、1917年、この世を去りました。しかしドガの没後、そのアトリエから150点ほどの未発表の蝋の塑像が発見されました。ドガは創作への情熱を最晩年まで枯渇させることなく、触覚を頼りに塑像を作り続けていたのです。彫刻群は保存状態も悪く、多くが劣化していましたが、そのうち73点がドガの友人であった彫刻家バルトロメによって救い出され、鋳造工アドリアン・A・エブラールによってブロンズ鋳造されました。

その全73点の遺作彫刻を一冊に収めたのが本書です。撮影は、フランク・ホーヴァット(1928-)。モデルをスタジオから連れ出して群集の中に置いた、モード写真で知られる写真家です。本書のあとがきに「彫刻の撮影とは、立体物を平面に転写するということである。正確には、無限にある選択肢からひとつだけ選んだ上の再現である」とホーヴァットが記しているように、彫刻は、絵画の場合とは異なり、撮影の仕方によってその印象をがらりと変えます。どんな角度や照明、距離がドガの彫刻にふさわしいのか──。ホーヴァットは、73点の彫刻を前に、あらゆる可能性を検討した結果、ひとつの答えを導き出しました。<ドガの制作風景に思いを馳せる>ということです。小振りの作品を手がけるとき、彫刻家はその作品を上から見下ろしていると考え、俯瞰気味に撮影することにしました。さらに、作品が最も美しく見える角度を研究し、ドガがアトリエの窓を左にして、おそらく逆光で制作していた、と推察。作品の右から逆光気味の照明を当てて、これらの彫刻を撮影していきました。完成作を見れば、ホーヴァットの答えが正しかったことがよく分かります。

異なるアングルで撮影された彫刻群を見ていると、彫刻は対峙する角度によってまったく異なる表情をたたえる立体芸術であることに、改めて気づかされます。そして、どの角度から見ても美しい踊り子や馬たちの姿は、ドガの失明という事実を思わず忘れさせてしまうほどの完璧なフォルムで、見る者を圧倒します。ドガのファンならずとも楽しめる一冊です。

元フランス大統領フランソワ・ミッテランの愛人としても知られ、本書の発売当時、オルセー美術館の主任学芸員であったアンヌ・パンジョが序文を寄せています。

※こちらでご紹介する書籍はMMFインフォメーション・センターにて閲覧いただけます。MMF所蔵資料データベースはこちら