日本語 Francais
シャアリ修道院
ネリ・ジャクマール=アンドレの自画像
▲ネリー・ジャックマール=アンドレの自画像。
©Musée Jacquemart-André, Institut de France
現在、美術館となっているシャアリの古城は、この偉大な女性コレクターの邸宅でした。この屋敷をお訪ねになれば、彼女が幅広い芸術に理解を示しながらも、とりわけ中世やルネサンス期のイタリアの巨匠たちを贔屓にしていたことがお分かりいただけると思います。
例えば、玄関の先にある「修道士たち」と呼ばれる部屋では、ジョット(1267-1337)がフィレンツェのサンタ・クローチェ教会のために描いた5枚の祭壇画のうちの2枚≪福音書記者聖ヨハネ≫(1320年)と≪聖ラウレンティウス≫(1328年)をご覧いただけます。この2点がこのミュゼでもっとも名高い作品のひとつであることには、どなたからも異論がないかと思います。
ジョットによる祭壇画
▲ジョットによる祭壇画。
©Bulloz
   
▲グランド・ギャラリー。
photo : Georges Fessy  ©Institut de France
18世紀に建てられた修道院の回廊の一部にあるグランド・ギャラリーに一歩足を踏み入れるやいなや、わたくしの心を捉えたのは、その丸天井の高さと美しさ、そして回廊の両側に彫刻を配するというアンドレ夫人自らが思い描いた展示方法の素晴らしさでした。古代様式の頭像はゴシックとルネサンス様式のケースの上に飾られ、その向かいにある灰色大理石の台座には16〜18世紀の胸像が配されています。展示室の奥には、17世紀に教皇ウルバヌス8世が所有していた2枚組みのタピスリーが掛けられており、その前にはバッチョ・バンディネッリ(1493-1560)による、メディチ家のコジモ1世の胸像が、その威厳に満ちた姿を今に伝えています。このグランド・ギャラリーは、多くの応接室へと繋がっています。
   
まずは、食事の間を覗いてみましょう。いかにも往時のフランス貴族の館の食堂らしいこの空間は、あとは客人の到着を待つばかりにしつらえられています。図書室にはとりわけ素晴らし調度品が備えられていますが、なかでも、家具職人アンドレ=シャルル・ブール(1642-1732)が1678年、ヴェルサイユ宮殿のために作った2点の台座は見逃せない逸品といえましょう。今は、それぞれの台座にザックス元帥と大コンデ公ルイ2世の胸像が置かれています。

ビリヤードルームには、豪華な額縁に収められたルイ14世(1670)の肖像画や、マルタン・デ・バタイユ(1659-1735)の筆による太陽王の事績を称える絵が何枚も掛けられています。グランド・サロンでは、17世紀、18世紀の美しい肖像画が飾られています。
▲東洋美術の飾られたインド風サロン。
photo : Georges Fessy  ©Institut de France
ラルジリエール、トック、L.M.ヴァン・ローといった画家たちの作品をご覧いただければ、自身も肖像画家だったアンドレ夫人が、肖像画に対していかに確かな鑑識眼をもっていたかお分かりいただけることでしょう。

そして、インド風サロン、ここはまさにアリババの洞窟とでもいいましょうか。ネリー・ジャックマール=アンドレが旅先から持ち帰ったり、人から贈られたりした東洋の美術品の数々が、ところ狭しと積まれているのですから。まったく色落ちしていない素晴らしい段通もありますので、忘れずにご覧になってください。
 
▲ネリー・ジャックマール=アンドレの私室。
photo : Georges Fessy  ©Institut de France
さて、お次は正面の大階段を上がって、アンドレ夫人の私室へと参りましょう。18世紀の貴重な家具調度品が置かれ、壁には多くの肖像画掛けられていますが、室内装飾に関する夫人のセンスの良さを何よりも物語るのは、バスルームではないでしょうか。鶴首式の黄金の蛇口がついた浴槽と、ルイ16世時代のボワズリーとの調和はじつに見事です。
   

夫人の私室と同じ2階には、18世紀、19世紀の家具を置いて客間にしつらえられた修道士の僧房があります。そのお隣の展示室には、ルネサンス期の絵画や家具のほか、さまざまな芸術品の数々が飾られています。また、小さな部屋がふたつ、ルネ・ド・ジラルダン侯爵(1735-1808)の子孫が収集した<ジャン=ジャック・ルソー・コレクション>に当てられています。ジラルダン侯爵は、1778年、シャアリから程近いエルムノンヴィルの地所に晩年のルソーを迎えいれたのです。

 
前のページへ マダム・ド・モンタランベールについて 次のページへ
ページトップ
>>Back Number