Français 日本語
バルビゾン村の美術散策 Le Village de Barbizonバックナンバーを読む
informations 3 2 1

▲ガンヌ旅館の「将校たちの食堂」
©Yvan Bourhis, Barbizon, avec l'aimable autorisation du Conseil général de Seine-et-Marne.

左手の扉を抜けると、「将校たちの食堂」があります。その名の由来は、周辺地域の演習兵たちがここへ食事に来ていたためなのですが、彼らと芸術家たちとの交流はなかったようです。この部屋には会食用のテーブルが1卓あり、青いモチーフで知られるファイアンス陶器、クレイユ・モントローの「フローラ」シリーズの食器セットが置かれています。暖炉には、すばらしい装飾が施されています。画家ジャン=レオン・ジェローム(1824-1904)が古代ローマに着想を得て描いた《ヘルクラネウムとポンペイ風の人物たち》です。また、暖炉の上に掛けられた鏡の美しい縁飾りはナルシス・ディアズ(1807-1876)が、羽目を飾る風景画はフランソワ=ルイ・フランセ(1817-1897)が手がけたものです。大きな戸棚にはアルベール・ブランデル(1827-1895)が、田舎の暮らしを描いた絵《りんごの収穫》が描かれています。また窓の左手にある戸棚にはこの近辺の風景画が描かれています。


▲ガンヌ旅館の「芸術家たちの食堂」
©Yvan Bourhis, Barbizon, avec l'aimable autorisation du Conseil général de Seine-et-Marne.

▲食堂の食器棚に描かれたトロンプルイユ
©Yvan Bourhis, Barbizon, avec l'aimable autorisation du Conseil général de Seine-et-Marne.

中央の部屋の反対側には、有名な「芸術家たちの食堂」がありますが、そこは木製の仕切り板でふたつに分かれています。板のパネルの1枚の中央には、テオドール・ルソー(1812-1867)の風景画、もう1枚にはナルシス・ディアズ作といわれている《月夜のアプルモン砂丘》が見られます。大空を舞う色とりどりの鳥たち――。そこには豊かな想像力が生み出した、趣のある世界が広がっていました。

この部屋で食堂として使われていたのは、通りに面した窓があるところ。今では、1卓のテーブルに椅子、そして、かつて使われていた食器(水差し、お酢入れ、スープ鉢など)を想起させるトロンプルイユ(だまし絵)が描かれた食器棚があるだけです。在りし日の芸術家たちは、まさにこの場所で、和気あいあいと集い、その日の成果を見せ合ったり、オリヴィエ・ド・ペンヌ(1831-1897)が描いた《ルイーズ・ガンヌとユージェーヌ・キュヴリエの結婚》に見られるような楽しい宴を開いたりしたのでしょう。テーブルの上には、当時、警察に提出するために記されたガンヌ旅館の宿帳が置かれており、宿泊者たちの名前、年齢、宿泊日を見ることもできます。


▲ガンヌ旅館の共同寝室の壁に描かれた絵《帽子を被った男》
©Yvan Bourhis, Barbizon, avec l'aimable autorisation du Conseil général de Seine-et-Marne.

2階に上がると、簡素な寝室や、必要に応じて寝台を加えて用いられていた共同寝室があります。ここでは、修復があった際に壁画が発見されました。画家たちは、雨の日には屋内で壁に直接絵を描いていたのです。窓のそばには、弁当や絵具、画材、折り畳み椅子とイーゼルを持って写生に出掛ける画家の姿が描かれています。


▲ジュール・コワニェ《フォンテーヌブローの森で写生をする画家たち》
バルビゾン派美術館
©Yvan Bourhis, Barbizon, avec l'aimable autorisation du Conseil général de Seine-et-Marne.

そこから、ナルシス・ディアズのような、フォンテーヌブローの森にインスピレーションを受けた画家たちの作品が展示されている部屋が続きます。ディアズの《風景》には、茶色の色調でまとめられた群生する樹々に、灰色の雲がたつ青空を広く取った構図で森が描かれています。テオドール・ルソーの《炭焼き小屋》は、真下に向かって日が差す正午の空気を、葉を描く暗い色調で表そうと試みた作品。ジュール・コワニェ(1798-1860)の《フォンテーヌブローの森で写生をする画家たち》では、フォンテーヌブローで写生をする画家たちが、日中、岩にもたれかかったり、パラソルの下で自然光の移り変わりを研究したりと、制作に励む様子が描かれています。ジャン=フランソワ・ミレー(1824-1875)の《縫い物をする女》は、青いブラウスを着て頭に黄色いスカーフを巻き、縫い物をする農婦の姿を描いた1枚です。シャルル=オクタヴィ・ポール・セイユ(1855-1944)が、イル・ド・フランスの典型的な村、シェイー・アン・ビエールとバルビゾンの風景を描いた9点の素描も魅力的です。

森や農地に生息する動物たちを専門に描いた画家たちの作品にあてられた部屋もあり、アレクサンドル・ドゥフォー(1826-1900)の《鳥小屋の雌鳥たち》や、フェルディナン・シェニョー(1830-1906)の《チコリおじさん》などが飾られています。シェニョーは、1868年から羊を研究し、動物が登場する絵を描き続けた画家です。


▲教会広場とテオドール・ルソーのアトリエ
©A. de Montalembert

バルビゾン村にはテオドール・ルソーのアトリエ兼自宅のように、芸術家たちのアトリエもありました。ルソーといえば皆さまもよくご存じかと思いますが、彼もまた森に魅了され、刻一刻と変化する自然を観察した画家でした。1847年には、ルソーはついにバルビゾンに居を構える決心をし、表通りから奥に入った1軒の農家を購い、アトリエにします。そして、広い家の離れに、ミレーやディアズといった友人たちを招いたのでした。ルソーのアトリエは今も残されており、バルビゾン派美術館の別館として企画展に使われています。しかし、残念ながら、かつての様子を偲ぶことはできません。当時の穀物庫は拡張され、小さい尖塔と木製の玄関のある可愛らしいチャペルが建っています。かつて庭であった場所はバルビゾンの死者を祀るモニュメントが置かれた広場に変わってしまいました。


ページトップへ