「じつは西洋の磁器の歴史は、東洋の焼き物に対する憧れから始まったのです。西洋には硬く透明感をもつ磁器を焼くために必要なカオリン(白磁土)がまだ発見されていなかったので、彼らは中国や日本からもたらされる磁器に強い憧れを抱いていました。どこの国も磁器の生産を成功させようと躍起になっていたのです」と話しながら、松村先生が映し出したのは、一面に美しいテーブルウェア(サーヴィス)が並んだスライド。会場からため息が漏れる中「私はいつも最初のスライドは面白みのある楽しい写真から始めることにしているんです。これはマリー=アントワネットのサーヴィスです。そしてじつはミニチュアなんですよ。現存しているアントワネットのサーヴィスを手本にして、セーヴルが2005年に制作したものです」。ミニチュアといえども、真珠のモチーフや金彩が施されたつまみなど、どれもこれも繊細で美しいものばかり。この写真から参加者の皆さんは一気に松村先生が語る陶磁器の世界へと誘われていきました。 セーヴル窯の擁護者であったルイ15世の愛妾ポンパドゥール夫人と軽やかなロココ美術のお話のくだりでは、技術者の死去によって長い間幻の色とされていたポンパドゥールピンクが施された華麗な作品や、繊細な花綱文様が施された夫人のプライベートを飾った小品を楽しいエピソードを交えながら解説いただきました。また夫人の没後ルイ15世の寵妃となったデュバリー夫人のサーヴィス、さらにはナポレオンのために作られたアンピール様式の作品まで、当時の美術的背景を物語る絵画作品のスライドも交えながら語っていただいた1時間半。セーヴルが歩んできた大きな歴史的背景と、その作品の細部に宿る美を、ときには俯瞰的にとらえる広い視線で、ときには顕微鏡をのぞくような細かい視点でお話いただいた内容の濃いサロン講座となりました。 講義のあとは、MMFのサロン講座ならではの先生を囲んでのコミュニケーションの時間。「次回フランスに行った時に、楽しく美術館を回れるような気がします」といった声があちこちから聞こえ、皆さん陶磁器の世界に魅了されたひとときとなったようです。
*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。