フランスの陶磁器に影響を与えた「サツマ」の魅力 サロン講座 「セーヴル焼とフランスにおける陶磁器の歴史」レポート
セーヴル焼と フランスにおける 陶磁器の歴史
  1867年、薩摩焼がパリ万国博覧会で多くの人々の注目を集めてから140周年となる今年、フランスのセーヴル陶磁器美術館で里帰り展「薩摩焼パリ伝統美展」が開催されることになりました。今回のサロン講座では、その展覧会にも深く関係されている陶磁史研究家、松村真希子氏をお招きし、セーヴル窯の変遷を中心に、ヨーロッパ陶磁器の魅力を解説していただきました。
 
キャンセル待ちが出るほどになったサロン講座の会場模様
豊富なスライドをもとに松村先生が丁寧に解説
 サロン講座当日は、激しい雨に見舞われたにもかかわらず、多くの参加者の方々にお集まりいただきました。
「今日は西洋の焼き物のお話をさせていただきますが、それだけではなく、ものを見る楽しさを少しでも皆さんにご紹介できたらと思っています」とは、サロン講座の始まりに松村先生が口にされたひと言。その言葉通り、焼き物の歴史的背景を織り交ぜながら、美術館を訪れ、作品と対面した際に楽しむためのヒントがたくさん飛び出したサロン講座となりました。
 「今日はきっと焼き物に詳しい方々も参加されているとは思いますが、少しだけ確認しておきましょう」と、まずは混乱されがちな焼き物の種類についてのお話から始められた松村先生。配布された参考資料に目を落とす参加者の皆さんに分かりやすいよう、磁器(Porcelain)や陶器(Pottery)、土器(Earthenware)、せっ器(Stoneware)の違いを説明した上で、この日の本題であるセーヴルを中心とした西洋陶磁器の世界へとお話は続いていきます。

「じつは西洋の磁器の歴史は、東洋の焼き物に対する憧れから始まったのです。西洋には硬く透明感をもつ磁器を焼くために必要なカオリン(白磁土)がまだ発見されていなかったので、彼らは中国や日本からもたらされる磁器に強い憧れを抱いていました。どこの国も磁器の生産を成功させようと躍起になっていたのです」と話しながら、松村先生が映し出したのは、一面に美しいテーブルウェア(サーヴィス)が並んだスライド。会場からため息が漏れる中「私はいつも最初のスライドは面白みのある楽しい写真から始めることにしているんです。これはマリー=アントワネットのサーヴィスです。そしてじつはミニチュアなんですよ。現存しているアントワネットのサーヴィスを手本にして、セーヴルが2005年に制作したものです」。ミニチュアといえども、真珠のモチーフや金彩が施されたつまみなど、どれもこれも繊細で美しいものばかり。この写真から参加者の皆さんは一気に松村先生が語る陶磁器の世界へと誘われていきました。
 セーヴル窯の擁護者であったルイ15世の愛妾ポンパドゥール夫人と軽やかなロココ美術のお話のくだりでは、技術者の死去によって長い間幻の色とされていたポンパドゥールピンクが施された華麗な作品や、繊細な花綱文様が施された夫人のプライベートを飾った小品を楽しいエピソードを交えながら解説いただきました。また夫人の没後ルイ15世の寵妃となったデュバリー夫人のサーヴィス、さらにはナポレオンのために作られたアンピール様式の作品まで、当時の美術的背景を物語る絵画作品のスライドも交えながら語っていただいた1時間半。セーヴルが歩んできた大きな歴史的背景と、その作品の細部に宿る美を、ときには俯瞰的にとらえる広い視線で、ときには顕微鏡をのぞくような細かい視点でお話いただいた内容の濃いサロン講座となりました。
 講義のあとは、MMFのサロン講座ならではの先生を囲んでのコミュニケーションの時間。「次回フランスに行った時に、楽しく美術館を回れるような気がします」といった声があちこちから聞こえ、皆さん陶磁器の世界に魅了されたひとときとなったようです。

   
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