03.日本とアンリ・チェルヌスキ〜旅、コレクション、美術館〜 コンデ美術館−シャンティイ城 フォンテーヌブロー城美術館
コンデ美術館−シャンティイ城
▲作者:フィリップ・カッフィエーリ、ルイ=ジョセフ・ル・ロラン、ジャン=フランソワ・ルルー(推定)
制作時期:1760年頃
© Martine Savart氏による写真の一部
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《ラ・リヴ・ド・ジュリーの書物机》
 この一風変わった形の家具は、書物机と書類整理棚が合わさったもので、ライオンの足の形をした支柱の足や、円柱のような足など、いわゆる「ギリシア風」の装飾が特徴的です。これは18世紀の有名な収集家、アンジュ=ローラン・ド・ラ・リヴ・ド・ジュリー(1725‐1779年)が自分のために作らせたのです。実はこれは、シャンティイ城の家具コレクションの中でも、歴史的に最も重要な作品のひとつなのです。
 18世紀の家具デザインの歴史には、大きく分けて3つの潮流があります。荘厳できらびやか、しかし重厚で直線的、男性的な<ルイ14世様式>、次に左右非対称や曲線、豪奢な装飾を特徴とする、ロカイユ様式(※2)とも呼ばれる<ルイ15世様式>、そして再び左右対称、直線が主流になり、古代ギリシア・ローマの影響を受けながらも軽やかで優美な様式が<ルイ16世様式>です。ルイ16世様式は、その後50年余り、ナポレオンの時代まで続く新古典主義の時代のはじまり、とされています。ルイ16世の治世(1774‐1791年)とルイ16世紀様式の時代は必ずしも一致しないのですが、一般的にルイ16世様式、というと、1770‐1775年頃以降を指します。
 よって、このラ・リヴ・ド・ジュリーの書物机のような古代ギリシア・ローマの影響が強く見られる家具が、1760年以前という、相当早い時期に制作されている、ということは驚くべきことです。
 新古典主義、当時の言葉で言えば「ギリシア趣味」は、18世紀前半に本格的に始まった、ポンペイとエルコラーノ(ヘルクラネウム)の遺跡の発掘に端を発している、と言ってもよいでしょう。火山に埋もれていた古代ローマの街並みが甦ったことにより、ヨーロッパ中にその発掘調査について書かれた本や、版画集などが出回り、空前の「古代ブーム」が起こるのです。
 ルイ15世の治下で、各国の大使を王に紹介する、という役職についていたラ・リヴ・ド・ジュリーはたいへんな美術愛好家で、その人脈を利用してコレクションを豊かにするとともに、流行の最先端を行く、いわゆる「トレンド・セッター」だったのです。この「ギリシア趣味」の書物机は、彼がその前で描かせた肖像画でも有名になり、たいへん話題を呼びます。
 フランスの古典主義の第一証人であるこの書物机は、この風潮を語る際には必ず引き合いに出される重要な作品です。それを所有しているシャンティイ城のコレクションが、いかに豊かであるかをも示しています。
※2 ロカイユ様式(Rocaille):
1723年から1750年にかけて、レジャンス(摂政)様式とルイ15世様式の時代に流行した装飾のジャンル。ロカイユは、貴族の館などによく見られる、装飾のための人口の洞窟や、作り物の岩(ロシェ)や貝(コキヤージュ)からインスピレーションを得ている。ロカイユという言葉は「岩のようにでこぼこした」という意味。ロカイユとバロック(baroque<仏>, barocco<伊>)を組み合わせた造語がロココ(rococo)。
Bouzin, C., Dictionnaire du meuble, Paris; Massin, 2000


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