GINZA-ART LINK [ 銀座界隈で出会えるアート ]
銀座界隈アートスポット巡り vol.7

メゾン・デ・ミュゼ・ド・フランス(MMF)のある銀座界隈には 企業が運営する美術館やギャラリーなどが、数多く点在しています。銀座のMMFにお越しの際、併せて訪問いただきたい、こうしたアートスポットをご紹介してまいります。

第7回 パナソニック 汐留ミュージアム 〜昭和初期の銀座で「考現学」を創始した〜今和次郎 採集講義展 会期:2012年1月14日(土)〜3月25日(日)

今回は、銀座ゆかりの展覧会が開催されると知って、連載第1回で紹介した美術館を再び訪ねました。2012年の1月1日より、「パナソニック電工 汐留ミュージアム」から「パナソニック 汐留ミュージアム」へと名前を変えたこの美術館では、年に数回、パナソニックの事業とかかわりの深い「建築・住まい」「工芸・デザイン」をテーマとした展覧会を企画しており、現在は、「今和次郎 採集講義展」(3月25日まで)が開催中。会場には、昭和初期、大都市化する銀座の街を観察し続けた今和次郎(こん わじろう)のユニークな世界が広がっていました。

 

パナソニック 汐留ミュージアム SIODOME MUDRUM ROUAULT GALLERY

  • 所在地
    東京都港区東新橋1-5-1
    パナソニック東京汐留ビル4F
  • Tel
    03-5777-8600
    (ハローダイヤル)
  • 開設年・経緯
    2003年4月、松下電工(当時)が社会貢献の一貫として収集・所蔵してきたジョルジュ・ルオーの油彩・版画を一般公開するために開館。
  • 運営コンセプト
    さまざまな文化活動を通じて、皆様に感動を安らぎを提供する「都会のオアシス」として、21世紀型都市「汐留」というロケーションにふさわしい文化的空間を創造。
  • 企画展の基本方針
    ルオーに関する企画展のほか、パナソニックの事業と関わりの深い「建築・住まい」「工芸・デザイン」をテーマとする企画展を開催することで、暮らしを豊にする「人と空間」「人と“もの”」との新しい関係を探り、提案する。
  • 企画展の開催頻度
    年に3〜4回
  • 施設構成
    「ルオー・ギャラリー」(常設展示)と企画展示スペース
  • パナソニックの他の主な文化施設
    パナソニックミュージアム 松下幸之助 歴史館
マップ
  • 観覧料
    展覧会により異なります。
    障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料でご入館いただけます。
    20名以上は各100円引きとなります。(60歳以上は除く)
  • アクセス
    JR新橋駅「銀座口」より徒歩8分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より 徒歩6分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩6分、都営大江戸線汐留駅「3・4番出口」より徒歩4分 パナソニック東京汐留ビル内4階
  • 休館日
    月曜日(祝・祭日は開館)、展示替え・館内整理期間、年末年始、夏期休業期間
    *2012年4月7日より休館日が水曜日に変更となります。
  • 開館時間
    10:00-18:00(ご入館は17:30まで) 
    *各データは2012年2月現在のものです。
 

「考現学」で知られる今和次郎の幅広く多彩な活動を紹介する

▲今和次郎のセルフポートレイト パリのカフェにて 1930年

 汐留ミュージアムは、19世紀フランスの画家ルオーのすぐれたコレクションで知られ、年に数回、ルオー関連の企画展が開催されています。それらと前後して開かれているのが、「建築・住まい」「工芸・デザイン」をテーマとした企画展です。今回の展覧会も、そのひとつです。

 今和次郎といえば、80年代に赤瀬川源平らと結成した「路上観察学会」などでその名が知られるようになったように、考古学に対する「考現学」の創始者としての側面にスポットが当たることが多いようです。しかし、会場をひとまわりしてみると、実は、それだけにとどまらない、幅広く多彩な活動をした研究者でもあることが、よくわかります。

▲民家研究の仕事を紹介するセクション

▲詳細な間取り図もすべて今和次郎の手描き

 展覧会は、今和次郎の業績を、4つのセクションに分けて紹介しています。まず初めは、農村調査と民家研究の仕事です。民家と、そこに暮らす人々にまつわる細々としたものを網羅的に記録したドローイングからは、民家を保存すべき建築対象としてではなく、人々の“今”の暮らしと結び付けて考えるという、今和次郎らしいユニークな姿勢がうかがえます。


▲関東大震災後の活動を紹介するセクション

 会場で多くの人が足を止めて見入っていたのは、関東大震災後の今和次郎の活動にスポットを当てたセクションです。関東大震災の後に人々が仮住まいとして建てたバラックの住居を、今和次郎が詳細に記録したスケッチや写真が並びます。実は、昨年、東日本大震災が起ったとき、すでにこの展覧会の準備中だったそうです。学芸員の大村理恵子さんは「今回の震災とあまりにもリンクしたので、このまま続けられるだろうかとも悩みました。しかし、今さんは関東大震災を機に新たな活動を展開させました。今、東北をはじめ、日本全国が『がんばろう』という気運になってきているのを見ると、今度はそれとリンクするようで、よかったと思っています」とお話しくださいました。

出身地の青森と、「考現学」実践の地、銀座 ふたつのゆかりの場で開かれる展覧会

▲左のドローイングを立体で再現した展示

▲今和次郎『東京銀座街風俗記録』より「統計図索引」1925年 工学院大学図書館所蔵

 関東大震災後のバラックを飾る「バラック装飾社」の仕事を紹介するコーナーの向かいには、昭和初期、大都市へと変貌を遂げていく東京の街や人々の暮らしを観察し、記録したドローイングの数々が展示されています。カフェの女給たちの服装を詳細に記したスケッチや、通行人を着物や帽子、靴、髭などの種類に応じて分類したものなど、ユニークでユーモア溢れる「統計図」が並びます。舞台となったのは、銀座でした。

 今和次郎が「考現学」実践の舞台として注目したのは、汐留ミュージアムのほど近くでした。学芸員の大村さんは、そのことも、展覧会開催の理由のひとつとなったと言います。「今回の展覧会は、ふたつの美術館の共同企画です。ひとつは今和次郎の出身地である青森の県立美術館。そして、汐留ミュージアムのある汐留は、今和次郎が考現学で注目した、近代化していく東京の核の部分、銀座のすぐ横ということで、場所的にもすごく縁を感じました」(大村さん)

▲今和次郎、吉田謙吉「銀座のカフェー服装採集1」(『アサヒグラフ』1926年11月号)

▲当時の写真が大きく飾られた展示室の様子。右奥は、ルオーの常設展示室「ルオー・ギャラリー」

 展覧会後半部分では、建築家、デザイナーとしての活動、教育者としての今和次郎を紹介する内容となっています。人々の暮らしのあり方、住まいとのかかわりを観察し、近代化に向けて進む日本で、地域社会はどうあるべきかと問い続けた今和次郎の視点を通じて、これからのわたしたちの暮らしを改めて考えさせられた展覧会でした。是非、足をお運びください。


学芸員からのメッセージ

 工学院大学図書館の今和次郎コレクションに所蔵される、膨大な資料の中から、厳選した資料を紹介する展覧会です。まずは、今和次郎自身の手による、オリジナルのドローイングの楽しさを味わってください。解説キャプションの中に、今和次郎の顔が付いているものがありますが、これが付いているものは今さんの言葉です。
味わいあるドローイングと、ユーモアあふれる文章、そのふたつをリンクさせて鑑賞して
いただければと思います。
パナソニック 汐留ミュージアム 学芸員 大村理恵子

 
 

Update : 2012.2.17

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