GINZA-ART LINK [ 銀座界隈で出会えるアート ]
銀座界隈アートスポット巡り vol.9

メゾン・デ・ミュゼ・ド・フランス(MMF)のある銀座界隈には 企業が運営する美術館やギャラリーなどが、数多く点在しています。銀座のMMFにお越しの際、併せて訪問いただきたい、こうしたアートスポットをご紹介してまいります。

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第9回 千代田区立日比谷図書文化館〜没後50周年記念企画 特別展〜報道写真とデザインの父 名取洋之助 日本工房と名取学校

今回は、2011年11月、2年間におよぶ改修工事を経てリニューアルオープンした日比谷図書文化館で開催中の特別展「名取洋之助 日本工房と名取学校」(6月26日まで)を訪ねました。報道写真、そしてデザインの父と称される名取洋之助の代表的な作品を一堂に会し、彼の仕事の全体像を紹介する展覧会です。

 

千代田区立日比谷図書文化館 Hibiya Library & Museum

  • 所在地
    東京都千代田区日比谷公園1-4
  • Tel
    03-3502-3340(代)
  • 開設年
    1908年に日比谷図書館として設立。1943年に都立図書館となり、2008年、千代田区へ移管。2011年に千代田区立日比谷図書文化館として再オープン。
  • 運営コンセプト
    常設展示室では、文化財とデジタル技術を駆使して千代田区の歴史と文化および町の魅力を紹介。特別展示室では、千代田エリアの文化を様々な角度から紹介する特別展示を実施。
  • 開催中の展覧会
    「没後50周年記念企画 日比谷図書文化館特別展 報道写真とデザインの父 名取洋之助 日本工房と名取学校」/
    2012年4月27日(金)〜6月26日(火)
  • 入場料
    〈常設展〉無料
    〈特別展〉一般:300円/大学・高校生:200円
    ※千代田区民・中学生以下、障害者手帳をお持ちのかた
       および付添の方1名は無料
マップ
  • アクセス
    都営三田線内幸町駅より徒歩3分。東京メトロ千代田線・日比谷線・丸の内線霞ヶ関駅より徒歩5分。JR新橋駅より徒歩12分。
  • 休館日
    毎月第3月曜日
  • 開館時間
    10:00-20:00(土曜19:00、日曜・祝日17:00まで、入室は閉室の30分前まで)
  • 運営企業
    日比谷ルネッサンスグループ
 

2年間の改修期間を経て再オープン「ミュージアム」機能を備えた総合施設

▲1957年に建てられた三角形の建物のかたちを踏襲して、2011年に再オープン

 都会のただ中にあって、16万uもの敷地を有する日比谷公園。四季折々の自然に溢れたこの都会のオアシスの一画に、三角形のユニークな建物で親しまれている日比谷図書文化館があります。2009年に旧・都立日比谷図書館が東京都から千代田区に移管され、改修工事を経て昨年の11月に再オープンしました。従来の「図書館」としての機能に加え、展示の場である「ミュージアム」、さらには講座やイベントの場である「カレッジ」の機能を融合した、総合文化施設です。

 運営は民間から選出された小学館集英社プロダクションを代表とする日比谷ルネッサンスグループが担当。これまでにない新しい試みを実現し、注目を集めています。たとえば、「図書館」としての機能に注目してみると、通常では閲覧が難しい価値ある貴重書を実際に手にとって見ることのできる「特別研究室」を開設したほか、図書フロアの書籍をカフェに持ち込んで読むことができたり、図書フロアにも飲みもの(ペットボトルやふた付きのカップに限る)の持ち込みが可能になるなど、従来の堅いイメージの「図書館」とは異なる新たな図書空間の創造に向けての取り組みがされています。
 お目当ての「特別展示室」は、1階の入り口を入ってすぐのスペースにありました。中央の階段を挟んで、右手奥が常設展示室。

▲三角形の尖端が、図書文化館の入り口。ここから特別展示室へ

▲名取洋之助展を開催中の1階特別展示室

千代田区の歴史を文化財と映像を駆使して紹介する場です。そして、左手奥にあるのが、今回、ご紹介する「名取洋之助 日本工房と名取学校」を開催中の特別展示室です。


戦前戦後を疾走した名クリエイター名取洋之助の全体像に迫る展覧会

▲日本をテーマにした写真本『折本 日本』蛇腹のまま展示

▲ライカやローライフレックスなど、名取愛用のカメラも並ぶ

 名取洋之助(1910-1962)といえば、戦後のビジュアル表現をリードした『岩波写真文庫』の仕事がよく知られる一方で、近年ではその名を冠した写真賞も創設されるなど、写真家・編集者・アートディレクターとさまざまに活躍した人物です。今回の展覧会は、その没後50周年を記念して開催されました。

 展覧会を監修した日本カメラ博物館運営委員の白山眞理さんは、名取に関する著作もある写真評論家ですが、今回の展覧会の見どころをこうお話しくださいました。「グラフ誌では、写真とデザインがとても近い関係にあります。80年前の戦争期に外国に向けられて創られたグラフ誌でクリエイターたちが手がけた写真とデザインの表現が、こんなにも斬新であったということを、改めて見ていただければ面白いと思います」

 展示室は小規模なスペースながら、戦前戦後の日本写真界を牽引した名取洋之助の代表的な仕事が網羅されています。オリンピック・ベルリン大会を取材した写真や、名取が設立した「日本工房」で制作した戦線の対外日本文化紹介グラフ誌『NIPPON』から、日本の『LIFE』を目指して終戦直後に創刊された『週刊サンニュース』や1950年代の『岩波写真文庫』までひとつひとつを見ていくと、そのモダンで、斬新な感覚に驚かされます。そして、多彩な仕事ぶりからは、名取洋之助が単なる報道写真家ではなく、編集者、そしてアートディレクターとしても非常に優れた手腕を発揮した類い稀なクリエイターであったことがよく分かります。

▲名取の日本工房が制作したグラフ誌『NIPPON』

 展示室の一画では、本邦初公開の資料が公開されていました。岡本太郎や木村伊兵衛、亀倉雄策、藤本四八など、名取と時代を共にした錚々たる面々が、その思い出を語った音声記録で、ときに辛辣に、ときにユーモアを交えて、愛憎入り混じらせつつ名取を語るその口調に、会場では笑い声も聞こえてきました。

 報道写真とそのグラフィック表現を全身全霊で追求しつつ、わずか50余年の人生を駆け抜けた名取洋之助。その仕事、そして生涯に触れる展覧会へ、ぜひ、足をお運びください。


▲日本の『LIFE』を目指して創刊された『週刊サンニュース』

▲『岩波写真文庫』もずらり。展覧会終了後は、千代田区立日比谷図書文化館で閲覧できる


キュレーターからのメッセージ

今年は、名取の没後50周年にあたります。若いかたは無論、今では名取洋之助を知らないかたが多いかもしれません。名取は、周囲を巻き込んで報道写真を追求してきた“熱い男”です。東京写真月間の一貫として開催される展覧会に足をお運びいただき、彼と仲間たちが作り上げた世界を見て頂きたいと思います。
日本カメラ博物館運営委員 白山眞理

 
 

Update : 2012.6.1

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