GINZA-ART LINK [ 銀座界隈で出会えるアート ]
銀座界隈アートスポット巡り vol.11

メゾン・デ・ミュゼ・ド・フランス(MMF)のある銀座界隈には 企業が運営する美術館やギャラリーなどが、数多く点在しています。銀座のMMFにお越しの際、併せて訪問いただきたい、こうしたアートスポットをご紹介してまいります。

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第11回 出光美術館 やきものに親しむⅨ 東洋の白いやきもの―純なる世界

皇居周辺の景観を眼下に一望できる出光美術館は、国宝2件を含む東京屈指の東洋美術のコレクションを誇ります。とくに陶磁器のコレクションは中国陶磁から日本陶磁までと幅広く、やきものファンには垂涎の美術館。中でも「やきものに親しむ」シリーズは、人気の企画展です。今回はシリーズ9回目となる「東洋の白いやきもの―純なる世界」展開催中の出光美術館を訪れました。

 

出光美術館 Idemitsu Museum of Arts

  • 所在地
    東京都千代田区丸の内3-1-1
    帝劇ビル9階
    (出光専用エレベーター9階)
  • Tel
    03-5777-8600
    (ハローダイヤル 展覧会案内)
  • 開設年
    1966年
  • 所蔵品
    国宝2件を含む約1万5千点。東洋古美術を中心に、近代作家やルオーなどの洋画を含む幅広いコレクションが特徴。
  • 開催中の展覧会
    「やきものに親しむⅨ 東洋の白いやきもの ―純なる世界」
    2012年8月4日(土)~10月21日(日)
    「仙厓」も併設展示
  • 入場料
    一般:1,000円/大学・高校生:700円/中学生以下無料(ただし保護者の同伴が必要)
  • アクセス
    JR「有楽町」駅 国際フォーラム口より徒歩5分。東京メトロ有楽町線「有楽町」駅/都営三田線「日比谷」駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線「日比谷」駅 有楽町線方面 地下連絡通路経由B3出口より徒歩3分。
マップ
  • 休館日
    月曜日(ただし月曜日が祝日および振替休日の場合は開館)、年末年始および展示替期間
  • 開館時間
    10:00-17:00(入館は16:30まで)
    金曜は19:00まで開館(入館は18:30まで)
  • 出光コレクションを鑑賞できるその他の施設
    ・出光美術館(門司)
    所在地 / 福岡県北九州市門司区東港町2-3
    URL / http://www.idemitsu.co.jp/museum/
 

都会の真ん中に広がる静謐な空間

▲皇居の緑が一望の下に広がる出光美術館のロビー。「この景色を借景として、ぜひ来館者の皆さんに見てもらいたい」というのも、創設者出光佐三氏の思いだった

 出光美術館は出光興産の創業者である出光佐三(いでみつさぞう/1885-1981)氏が、70余年の歳月をかけて蒐集した美術品を公開するため、1966年、東京・丸の内の帝劇ビル9Fに開館しました。そのコレクションは、禅宗の僧、仙厓(せんがい/1750-1837)の書画に始まり、やまと絵、水墨画、琳派などの日本絵画、書跡、陶磁器、工芸品、さらには19世紀のフランス人画家ジョルジュ・ルオー(1871-1958)、アメリカの抽象表現美術の代表的な画家サム・フランシス(1923-1994)と、多岐にわたります。出光佐三氏は、出光美術館の設立に際し、次のような言葉を残しました。
 「美術品は人の芸術作品であり、そこには日本人として独創と美がなくてはならない。そして、優れた美術品の蒐集を常に心掛け、これをもって時の人の教学の資となし、後の世の人のために手厚く保存しこれを伝えることは、美術館の最も重要な使命である」
 開館からおよそ半世紀たった現在でもこの志は守られ、所蔵品に込められた先人の“美への想い”を、1年に5~6回のペースで開催される企画展という形でわたしたちに伝えてくれています。

▲モダンなエレベーターホールが日常から非日常へと誘う

▲受付を抜けていよいよ展示室1へ。出光美術館には3つの企画展示室、ルオーやムンクの展示室、アジア各国・中近東の貴重な陶片を紹介する陶片室と全5室の展示室に加え、茶室「朝夕菴」がある

 2007年秋、出光美術館は40周年を機にエントランスホールやミュージアムショップをリニューアルして新たなスタートを切りました。エレベーターで9階へ上がると、やや照明を落としたエレベーターホールが広がります。つい数分前までいた都会の雑踏から切り離されたような、静謐で凛とした空気が流れる空間です。「美術館にいらっしゃる方に、できる限り非日常の時間を楽しんでいただきたいという思いから、エントランスを改装しました」と語るのは、学芸課長代理の八波浩一(やつなみひろかず)さん。それでは、八波さんの案内で、非日常の世界へと足を踏み入れてみることにしましょう。


シンプルだからこそ美しい―国を超えて愛された白磁の美

▲白い背景に、透明感のある白磁の肌が鮮烈に浮かび上がる

▲『白磁暗花蓮唐草文僧帽形水注』
中国 明「永楽年製」銘 景徳鎮(けいとくちん)官窯 出光美術館蔵
青磁に代わり、白磁が宮中での御器となったのは、元時代からのこと。元朝の支配者モンゴル族は、白を最も尊んだため、宮中の祭器は白磁の産地である江南の景徳鎮のものに変更された

 シリーズ企画展「やきものに親しむ」の9回目となる今回は、「白」がテーマになっています。展示室に入ると、清澄な輝きを放つたくさんの「白いやきもの」が私たちを待っていました。陶磁器にはあまり馴染みがなく、少し気後れしながら展示作品を拝見しました。そんなわたしたちの気持ちを和ませてくれたのが、八波さんのひと言でした。

 「今回の展覧会は陶磁器のイントロダクションとして楽しんでいただきたいと思って、企画しました。現代のテーブルウェアの世界でも、「白いうつわ」は人気がありますが、そのルーツが分かるよう、今回は中国の各時代・各地域の白磁、さらに朝鮮や日本の白いやきものも一堂に展示しています。各時代やテーマの概要はご説明していますが、各作品については解説をあえて控え目にしています。それは陶工の技の素晴らしさを、純粋に目で見て楽しんでいただきたいからです」

 まずは、知識は横に置いて、やきものの美しさを自由に感じとればいい――という言葉は、展覧会を楽しむうえでとても重要なポイントとなりました。展覧会は、白いやきものの出自に始まり、中国で青磁をしのぐニューウェーブとなった白磁の発展、御器として宮廷で使われるようになった景徳鎮の白磁、さらには白磁にあこがれた庶民が使うために、安価で大量に焼造された白釉陶器など、110点余りの「白いうつわ」が並びます。ひと口に白といっても、緊張感をはらんできりりと輝く白から、青みを残した白、土の温もりを感じさせる白まで、その色も形もさまざま。白磁は、純白な素地に透明な釉薬をかけて焼成するシンプルなものです。そのため、今にも欠けてしまうのではと思うような繊細な形や、洗練された彫文様など、職人たちの巧みな技と美意識が投影されているのも特徴なのだそうです。


▲『白磁弁口水注』中国 唐時代 邢窯(けいよう) 出光美術館蔵
河北省の邢窯は、景徳鎮に先駆け本格白磁を手がけた唐時代中頃の名窯。繊細な形が美しい

 また今回の展覧会では中国の作品だけでなく、朝鮮王朝の白磁や日本の白いやきものも出品されています。中でも必見なのが、特別出品されている重要文化財の『白天目』(徳川美術館蔵)です。天目茶碗というと、黒釉がかけられたものが一般的ですが、この作品は柔らかみのある志野の白濁釉がかけられている稀有な作品。「大名物」と称される、利休以前に名を得た茶の湯道具の名物の中でも、とくに珍重されるものです。小さなうつわに込められた日本人の自由で独創的な発想を、是非、会場で感じとってみてください(『白天目』の出品期間は9月30日まで)。


ギャラリー担当者からのメッセージ

東洋美術は知識がないと敷居が高いと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、何百年にもわたって受け継がれ、残っている美術品は、必ず特別なオーラをまとっていると思います。まずは出品されている作品の中から1点だけでも好きな作品、引き込まれる作品を見つけてください。日本人の美の感覚は、中国や朝鮮半島の美意識を受け継いでおり、もちろんそれは現代に生きるわたしたちのDNAにも息づいているはずです。陶工が全身全霊を込めた作品、そしてそれを大切に受け継いできた所有者たちの気持ちを、展示作品を通じて受け止めていただければと思います。
出光美術館 学芸課長代理 八波浩一

 
 

Update : 2012.9.1

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