メゾン・デ・ミュゼ・デュ・モンド(MMM)のある銀座界隈には企業が運営する美術館やギャラリーなどが、数多く点在しています。銀座のMMMにお越しの際、併せて訪問いただきたい、こうしたアートスポットを中心にご紹介してまいります。
今回訪れたのは、「銀座メゾンエルメス フォーラム」。東京・銀座5丁目に斬新なデザインでひときわ目を引く銀座メゾンエルメスの8階フロアに位置するミュージアムです。「アーティストとともに創造する空間」をテーマにしたこのスペースでは、フランスを代表する作家の一人であるクリスチャン・ボヌフォワ氏の日本初の個展が開催されていました。
2001年、イタリアを代表する建築家、レンゾ・ピアノによって設計された銀座メゾンエルメス。オープン当初より、ガラス・ブロックに包まれた外観はもちろん、2ヵ月ごとに変わるウィンドウディスプレイでも道行く人の目を楽しませてくれています。
その8階フロアにあるのが、「銀座メゾンエルメス フォーラム」です。ものづくりにこだわり、創造性を何よりも大切にしているエルメスでは、世界に文化を発信してきたフランスのエスプリを受け継ぎ、今を生きるアーティストによる展覧会を開催。フランスはもちろん、日本のアーティストをはじめ、世界各国のさまざまな現代アートを紹介しています。
このフォーラムで現在開催しているのが、「クリスチャン・ボヌフォワ展」(2013年12月13日〜2014年2月28日)です。1948年にフランス・サランドルで生まれたボヌフォワ氏は、美術史家・批評家としてそのキャリアをスタート。22歳のときに、パリのグラン・パレで行われた展覧会で、アンリ・マティスのレリーフ状の彫刻《Dos/背中》と出会い、画家を志すようになります。パリのポンピドー・センターをはじめ、マティスの故郷に建つマティス美術館でも大規模な個展を開催してきましたが、日本では今回が初めて。
▲ボヌフォワ氏(右)と、会場構成を手掛けた中山氏
©Nacàsa & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès
初期から新作まで代表的な作品を一堂に会した“ミニ回顧展”ともいえる個展は、ボヌフォワ氏の独創的な世界が存分に楽しめる内容となりました。
▲展示室に入ってすぐにある《バベル》のシリーズ
©Nacàsa & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès
吹き抜けの自然光に満たされた展示室に足を踏み入れると、高さ6m、全長50m、厚さ41mmの薄く大きな白い壁と、それに調和したボヌフォワ氏の作品群に圧倒されます。
中でも、展示室の入り口近くにある大作《バべルXXI》は、従来の絵画のような枠組みを作らず、さらに半透明なカンヴァスを使用することで、表側からも裏側からも見ることができるのが特徴です。「この作品では、空気と光が循環しています。私にとって絵画の原動力となるのは、素材や色彩ではなく、まずは光です」とボヌフォワ氏が話すように、光の入り方が計算されたこの作品は、見る場所によって違った印象を与えてくれます。
マティスの作品と出会った数年後から、ボヌフォワ氏は《背中》と名づけた作品のシリーズを何度も制作するようになります。「マティスの作品と出会ったのが、私の画家としての出発点です。《背中》は、2、3年ごとによみがえってくるモチーフ」と語るボヌフォワ氏。
今回の展覧会でも、そのシリーズが並べられており、薄紙を切り抜き、着彩やドローイングを施したシリーズは、色彩をはじめ、コラージュの手法などにマティスの影響を見てとることができました。
さらに奥に進んでいくと、今回の展覧会のために描かれたという新作《銀座上空の黄道十二宮の星座》が私たちを異空間へと誘ってくれます。わずかにグレーを帯びた壁一面に、青、ピンク、黄、黒色など、さまざまな彩色を施した作品群がちりばめられ、まさに“ボヌフォワ・ワールド”を感じることができました。
「マティスの存在は自分の作品のあらゆるところに見え隠れしている」――。20世紀の巨匠の精神を踏襲しながら、新たなものへと昇華していくボヌフォワ氏の世界。空間とアートが一体となった会場へ、ぜひ足をお運びください。
ボヌフォワ氏の日本初の個展となる本展覧会ではミニ・レトロスペクティブ(回顧展)形式を用い、《バベル》《ユリイカ》《背中》など年代を重ねて繰り返されるものから、《銀座上空の黄道十二宮の星座》といった新作まで、代表的な作品を紹介しています。気鋭の若手建築家、中山英之氏が手掛けた会場構成が、より一層ボヌフォワ氏の作品の魅力を引き立たせています。まだご覧になっていない方はもちろん、もう一度ご覧になりたい方も、ぜひお立ち寄りください! 銀座メゾンエルメス フォーラム