1989年にデザイナーのテレンス・コンラン(Terence Conran/1931-)が設立した「デザイン・ミュージアム」が、2016年11月にイギリスのテムズ河南岸からロンドン西側のケンジントン地区に移転し、新装オープンしました。「現代デザインと建築をカバーする、イギリスで唯一の美術館」とうたっています。今月の特集では、そのデザイン・ミュージアムで開催中の注目の展覧会をご紹介します。
ロンドンの中心、シティ・オブ・ロンドンの西、ホランド・パークにあった1960年代の建物を、装飾性を排除したスタイルで知られる建築家、ジョン・ポーソン(John Powson/1949-)が大改造しました。1階の広いホールから上階にゆるやかに階段がのびています。2階にはセミナーができる部屋や図書室があります。最上階では、常設展「デザイナー・メーカー・ユーザー」を開催しています。あるモノをデザインし、作り、使うことがエシック(倫理性があること)で、サステナブル(持続可能)かどうかを、作る人と使う人に問いかける、環境や人権を考えた哲学が感じられます。その一例が、廃棄物を減らすために部品を交換可能にした携帯電話のデザインです。
地下は特別展会場です。2017年がロシア革命100周年記念であることから、イギリスでは革命直後の「ソ連」についての展覧会が続いています。「モスクワを想像して」展では、建築にフォーカスし、実現しなかった6件のプロジェクトを中心にして、新しい国を創るという希望に満ちた建築家たちの大胆な前衛作品と、それが政権のプロパガンダに利用されていった過程を見ることができます。建築家の発想は壮大で、まるでSF映画のセットを見ているよう。このモスクワのプロジェクトが実現していたら、世界は変わっていただろうと思わせるほどに魅力的です。
学芸員のエステル・スタイヤホーファー(Eszter Steierhoffer)さんは、本展を開催する意義をこう説明しました。「当時の建築家、デザイナー、アーティストの間の交流を見せ、過小評価されていた建築に再評価を促すのが本展の目的のひとつです。革命後、モスクワが首都になりました。そこには、未来に目を向けた革新的な構想が集まりました。この時代の建築には、現代の建築家をも刺激する新鮮なアイデアがあります。背景にある、ヴァカンスについての考え、体を鍛えること、ネットワークを作ること、知識のシェアなどは、現代にも通じるテーマです」
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Update : 2017.5.8 文・写真 : 羽生のり子(Noriko Hanyu)
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