
ショパンの代表作誕生の舞台を紐解く
今年の夏のヴァカンスは、皆さん、どんな思い出をつくりましたか?夏の残り香を、少しさびしい思いとともに見送るこの季節。今月は作曲家フレデリック・ショパンと女流作家のジョルジュ・サンドが、夏の日々を過ごしたノアンでの日々がつづられた書籍をご紹介します。
ショパンとサンドの出会いは、1836年、リスト邸で開かれた夜会でのことでした。この時ショパンは26歳、結婚を誓い合った女性との破局によって、傷心の日々を過ごしていました。そんなショパンの目の前に現れたのが、6歳年上の男装の女流作家サンドでした。当初ショパンは、数多くの男性と浮名を流す奔放なサンドを快く思っていなかったようですが、精神的にも経済的にも自立したまったく新しい女性像であるサンドに、しだいに心惹かれていくことになります。サンドもまた、繊細な精神と天性の音楽的才能を秘めたショパンに魅せられていきました。
やがて恋人同士となったふたりは、1839年から1846年の間の7度の夏を、フランス中部の村ノアンのサンドの館でともに過ごし、ショパンは、代表作となるピアノ曲のほとんどをこの館で作曲しました。ノアンはショパンにとって、パリの社交界のわずらわしさから解放され、自由な制作活動を行える“ミューズの館”となったのです。
本書は、音楽史においても重要な場所として歴史に刻まれるノアンの館の数多くの写真とともに、この地がどのような影響をショパンに与え、名曲の誕生へと導いたのかをひもといていきます。神経質な表情を浮かべるショパンや漆黒の髪を持ったサンドのエキゾチックな肖像画なども収載されており、音楽ファンはもちろん、美術ファンも十分に楽しめる内容です。さらに、ノアンで作曲されたピアノ曲をすべて収録した4枚のCDも付いているので、ショパンの美しい調べに耳を傾けながら、ふたりのはかなくも美しい夏の日々に思いをはせてみてはいかがですか?