2017年、今年も各美術館で注目の展覧会が目白押しです。1月21日、東京都美術館で開幕した「ティツィアーノとヴェネツィア派展」もそのひとつ。「画家の王者」とも称えられるティツィアーノ・ヴェチェッリオ(1488/90-1576)の作品を中心に、ヴェネツィア派絵画の魅力がぎゅっと詰まった展覧会です。その見どころを、6つのキーワードとともにレポートします。
▲展覧会で最初に出会う作品は、15世紀ヴェネツィア共和国の統領を描いたこの一枚。スポットライトのような照明が、作品の荘厳な雰囲気を際立たせる
ラッザロ・バスティアーニ《統領フランチェスコ・フォスカリの肖像》1460年頃、ヴェネツィア、コッレール美術館
「ルネサンス」と聞いて、皆さまはイタリアのどの街を思い浮かべるでしょうか? 花の都フィレンツェや、ヴァチカンのお膝元ローマを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、15世紀から16世紀にかけて、世界にその名を轟かせたのは、海洋交易と造船業で繁栄したヴェネツィアの画家たちでした。本展の監修者であるジョヴァンニ・C・F・ヴィッラ氏(ベルガモ大学教授・キエリカーティ宮絵画館館長)は、「新たな絵画様式が1475年から1500年のヴェネツィアで創出され、印象派の出現までそれに代わるものはありませんでした」と話します。それは、どのような様式だったのでしょうか?
ヴェネツィア派の幕開けに焦点を当てた最初の展示室でひときわ存在感を放っていたのはジョヴァンニ・ベッリーニの《聖母子(フリッツォーニの聖母)》。ベッリーニ(1435頃-1516)は、15世紀後半のヴェネツィアにおける絵画の2大工房のひとつを率いた画家で(もうひとつはヴィヴァリーニ工房)、今回の展覧会の主人公ティツィアーノの師匠です。色彩を用いて丹念に明暗を描き込む手法で人物の感情や大気の表現を追求して、ヴェネツィア派の礎を築きました。詩情あふれる風景描写も特徴です。
ヴェネツィア派の特質は、フィレンツェ派の画家たちと比べてみるとよく分かります。ボッティチェリやレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロらフィレンツェ派の画家たちは、デッサンを重視する「線の画家」。一方、ベッリーニやティツィアーノ、ティントレット、ヴェロネーゼらヴェネツィア派の画家たちは、色彩と明暗表現を重視する「色の画家」でした。線ではなく色彩、さらには明暗によって三次元のものを二次元に表現するという西洋絵画の伝統は、ヴェネツィア派によって築かれたのでした。
次ページでは、「画家の王者」ティツィアーノの傑作群をご紹介します。>>
*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。