今でこそ、ルネサンスの画家といえば、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロがその筆頭に上がりますが、当時、もっとも大きな成功を手にしたのは、ティツィアーノでした。彼はヴェネツィアのみならずイタリア諸都市、ヨーロッパ各国の王侯貴族の画家となり、さらには神聖ローマ帝国皇帝カール5世の画家ともなったのです。また、偏屈で知られたミケランジェロとは対照的に、社交性に富み、権力者たちとも互角に接することができたといいます。ミケランジェロが羨んだのもさもありなん、というまさに「画家の王者」だったのです。
今回の展覧会には、ティツィアーノの傑作中の傑作といえる3作品が出品されています。初期の代表作《フローラ》と初来日の傑作《ダナエ》、そして晩年の代表作《マグダラのマリア》です。絢爛たる色彩と荘厳な雰囲気の宗教画を生み出したティツィアーノですが、各国の王侯貴族のあいだで、とりわけ人気を博したのが、官能的な女性像でした。輪郭をぼかし、色彩と絵筆のタッチによって女性の肌のやわらかさまで描き出し、官能的な裸体の美を強調したティツィアーノには、後年、印象派随一の裸婦描き、ルノワールも憧れたといわれます。
▲ヴェロネーゼの甥、ダル・フリーゾ(本名アルヴィーゼ・ベンファット)の《カナの婚礼(ヴェロネーゼに基づく)》
ダル・フリーゾ《カナの婚礼(ヴェロネーゼに基づく)》1590年頃、ヴィチェンツァ、キエリカーティ宮絵画館
宗教性よりも官能性を重視した描写で人気を博したティツィアーノ。ヴェロネーゼはその後継者として、宗教的感動よりも世俗的な喜びを描くことを重視した画家といわれています。しかし、本展に出品された《聖家族と聖バルバラ、幼い洗礼者聖ヨハネ》は、厳かな宗教性をたたえた作品。黄金の髪とドレス、透明感あふれる女性の肌、場面を演出する光の効果などによって、内側から輝くような世界が作り出され、円熟期のヴェロネーゼの画力を物語る傑作です。また、もっともよく知られたヴェロネーゼの傑作《カナの婚礼》の、ヴェロネーゼの甥によるコピー作品も出品されています。
かつて、世界にその名を轟かせたヴェネツィア派の巨匠たち。色彩と光にあふれたその絵画世界を堪能できる展覧会。特設ショップには、ティツィアーノらの作品をモチーフにした素敵なオリジナルグッズもたくさんありますので、ぜひ、足をお運びください。
ティツィアーノの代表作のひとつ《うさぎの聖母》はMMM B1Fライブラリでご紹介しています。
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