マダム・ド・モンタランベールのミュゼ訪問(2) ヴィラ・エフルッシ・ド・ロスチャイルドとヴィラ・グレック・ケリロス
MMFのwebサイトをご覧になっているみなさまに、パリから素敵な便りが届きました。差出人は、美術を心から愛するマダム・ド・モンタランベール。日々、美しいもの、真なるもの求める彼女は、四季折々に輝くミュゼの上質な愉しみ方を教えてくれます。フランスへ旅立つとき、このコーナーにお誘いが届いていたら、マダムの隠れ家のようなミュゼに足を伸ばしてみませんか。
ご機嫌いかがですか?

今日は、わたくしがコート・ダジュールでのヴァカンスの折りに訪れた、2つのヴィラ(邸宅)のミュゼについてお話いたしましょう。一般にはあまりご存知ない方もいらっしゃるようですが、それぞれがまったく異なるスタイルを持つとても素晴らしいミュゼなのです。これらのミュゼは、ニースとマントンの間、フランスのリヴィエラにあります。リヴィエラは、かの有名なニースのプロムナード・デザングレ(イギリス人の散歩道)がその名に伝えるように、ベル・エポックの時代には、ヨーロッパ、特に英国社交界の人々が訪れた高級保養地のひとつでした。

温暖な気候、山の多い変化に富んだ海岸、町々に残る優雅な建築、そして内陸の素朴な村々の魅力など、フランス国内はもちろん世界中の人々を今も惹きつけてやまない土地です。

はじめにご紹介するミュゼは、創設者ベアトリス・エフルッシ・ド・ロスチャイルド男爵夫人(1864-1934)の名を冠した「エフルッシ・ド・ロスチャイルド邸」です。彼女は、とても美しい自分のコレクションのために、彼女が愛したバラ色のイタリア式宮殿を建てさせました。このミュゼでは、ルイ15世とルイ16世時代の家具、フラゴナール、ブーシェなどの絵画、そして風景や花飾りが施されたフランスの陶磁器など、その時代のスタイルを完璧に伝える見事なコレクションに出会えます。このヴィラは、海を臨む7ヘクタールにもおよぶ公園の中心に位置し、ここからの、ヴィルフランシュとボーリューの停泊地の眺めは、この上もなく美しいもの。この感動は、わたくしの想像を超えたものでした。公園はフランス式庭園、スペイン式庭園、フィレンツェ風庭園など様々な庭園で成り立っているのですが、日本庭園は、日本の企業の協力のもと、日本人の素晴らしい造園家である福原氏(大阪造園学校)によって見事に修復されていました。また、この公園には思いがけない楽しみも用意されています。たとえば、フランス式庭園では、水のリズムに併せて美しい旋律を奏でる噴水が庭園を美しい魔法にかけるのです。この比類ない景色をもっとゆっくりお楽しみになりたいなら、サロン・ド・テに腰をおろして、シンプルでいて素晴らしい昼食をロスチャイルド家ゆかりのグラスでシャンパンとともに味わってみてはいかがでしょうか。

ヴィラの壮麗な大ホールや、夢のような照明によって姿を変えた庭園で、幾夜も催されるオペラのひとつをご覧になるのもお勧めです。

そして、ここから800メートルほど参りますと、わたくしたちを古代ギリシャへ誘ってくれるヴィラ・ケリロス(この名前はギリシャ語でカモメ科の鳥“アジサシ”を意味します)があります。

このヴィラは、異国風の植物が植生するため“小さいアフリカ”とも呼ばれるボーリューの海水浴場にあります。ギリシャ文明を熱愛した歴史家テオドール・ライーナッハ(1860-1928)が、やはりベル・エポックの時代にこのヴィラを建てました。オリーブ、ぶどう、棕櫚、パピルスなど地中海の植物が生い茂る庭園に囲まれ、岬の上に壮大な姿で佇んでいます。このヴィラは、花瓶、ランプをはじめとする古代ギリシャ時代のコレクションと、資料をもとにして作られたレプリカによって再現された古代ギリシャの邸宅なのです。まず入口で訪問者を出迎えてくれるのは、堂々たる哲学者ソフォクレスの大きな彫像。そして、見事な内部の再現にふれて、古代人と彼らの生活様式に示された大いなる敬意に魅了されます。とりわけ、共同浴場とモザイクで設えられた浴槽は、みなさまもきっと入浴されてみたい気持ちにかられることでしょう。

名品として名高いレプリカが並ぶ古代ギャラリーで、アポロンの前にしばし足を留めて、幸福な瞑想へと誘われるままにその調和のとれたこの上ない美しさに感謝を捧げると、あたかも紀元前2世紀に舞い下りたかのような感覚に包まれます。

みなさまが、わたくしと同じく、ヴィラの訪問を楽しんでくださることを心から望んでいます。

友情をこめて。

ヴィラ・エフルッシ・ド・ロスチャイルド
Villa Ephrussi de Rothschild
住所 06230 Saint Jean-Cap Ferrat
URL   http://www.villa-ephrussi.com
開館時間   年間を通じ毎日開館
●2月4日から11月2日
10時から18時(7月8月は19時まで)
●11月3日から2月3日
・週末と学校休暇期間…10時から18時
・平日…14時から18時、サロンと庭園のみ開館
入館料   8.5ユーロ
場所   ニースから8km、モナコから12km
インフォメーションセンターでは、2つのミュゼのアルバムガイドを閲覧いただける他、日本語解説付きパンフレットもお持ち帰りいただけます。
ヴィラ・グレック・ケリロス
Villa Grecque Kérylos
住所 06310 Beaulieu-sur-Mer
開館時間   年間を通じ毎日開館
●2月4日から11月2日
10時から18時(7月8月は19時まで)
●11月3日から2月3日
・週末と学校休暇期間…10時から18時
・平日…14時から18時、サロンと庭園のみ開館
入館料   7.5ユーロ
場所   ヴィラ・エフルッシ・ド・ロスチャイルドから800m、ボーリュー・シュル・メール湾沿い、ヴィラ・ケリロスはニース及びモナコから10km
アクセス   ●バッス・コルニッシュ(国道98号線)でニース・モナコ間
●SNCF(フランス国有鉄道)ボーリュー・シュル・メール駅から徒歩9分
マダム・ド・モンタランベールについて
本名、アンヌ・ド・モンタランベール。
美術愛好家であり偉大な収集家の娘として、芸術に日常から触れ親しみ、豊かな感性が育まれる幼少時代を過ごす。ブルノ・デ・モンタランベール伯爵と結婚後、伯爵夫人となってからも、芸術を愛する家庭での伝統を受け継ぎ、ご主人と共に経験する海外滞在での見聞も加わり、常に芸術の世界とアート市場へ関心を寄せています。アンスティトゥート・エテュディ・デ・スペリア・デザール(IESA)卒業。
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