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今日は皆さまをバカラのミュゼへとご案内いたしましょう。このミュゼがあるのは、トロカデロと凱旋門のあいだという、まさにパリの中心部。クリスタル工芸のコレクションとオリジナリティ溢れるディスプレイが織り成す絢爛たる世界には、きっと皆さまも驚かれることと思います。
パリ16区、合衆国広場を囲むように建つ豪奢な邸宅のひとつにバカラ本社があります。多くの大使館が集まる16区は、パリの富裕層や各国の外交官が暮らす閑静な住宅街で、合衆国広場には、ニューヨークの自由の女神像で知られるバルトルディ(1834-1904)が制作したジョージ・ワシントンとラファイエットの彫像が飾られています。 |
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▲ギャラリー内の展示室《錬金術》。手前のガラスケースには有名な「サイモン・ベース」が。
Tous droits réservés, La maison Baccarat |
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▲パリ16区に立つバカラ・ギャラリーミュージアム。
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現在、バカラ本社となっている建物は、ベル・エポックのパリで“社交界の女王”と謳われた画家で詩人のマリー=ロール・ド・ノアイユ子爵夫人(1902-1970)が暮らした邸宅でした。フランスの名門貴族であるノアイユ夫妻は、この邸宅を舞台に一風変わった贅沢なパーティを催し、多くの客人の心を酔わせました。お客様として招かれたのは、外交官や貴族のほか、コクトー、ダリ、マン・レイ、マレ・ステヴァンといった、20世紀初頭のパリを代表する芸術家や画家、音楽家たち……。夫妻のパーティは、パリの知性と影響力のある人々との出会いの場だったのです。
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ミュゼ探訪を始める前に、バカラの名がフランス東部、ナンシー近くの森林地方に位置する土地に由来するということをお伝えしておきましょう。
クリスタル製造所としてのバカラの歴史は、ルイ15世が設立を命じた1764年にまで遡ります。1816年には最初のクリスタル窯が作られました。その後、国王ルイ18世のグラスセットの注文を受けたことをきっかけに名声を得たバカラは、間もなく世界中にその名を轟かせ、インドのマハラジャやアメリカ大統領のフランクリン・ルーズベルト、ロシア宮廷、日本の皇室などにもクリスタル製品を納めることになったのです。 |
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さらに奥に進まれると、腰かけとして使われている大きな木の幹があります。こうした場にはすこし不似合いのように思われるかもしれませんが、クリスタルの製作には木というものがとても重要なものであること、そして、バカラの本拠地を取り囲む森を思い起こさせるために置かれたものなのです。
階段の上に目を向けると、800kgもの重さのシャンデリアが静かに揺れ動いています。1855年に作られた当時は、157本のろうそくが灯されていましたが、今日では電気が使われています。このシャンデリアをご覧になれば、マハラジャたちの豪奢な暮らしぶり、そして、印象的なシャンデリアが登場するサタジット・レイ(1921-1992)の映画『音楽ホール』に思いを馳せる方もいらっしゃるのではないでしょうか。 |
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▲階段の上に飾られた重さ800kgのシャンデリア。
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▲展示スペース《大きさに魅せられて》。
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光輝く星が縁取りされた絨毯に沿って2階にお進みになると、そこが美術館の入り口となります。ロココ調の壁が美しい舞踏会の間「マリー=ロール・ド・ノアイユ」は、17世紀ナポリの雰囲気を今に伝える華やかな空間。天井画は、ヴェネツィア派の画家ティエポロ(1696-1770)の弟子フランチェスコ・ソリメーナが1732年に描いたものです。絢爛たる舞踏会が繰り広げられた華やかなりし日々──。この空間に立つと、その光景が目に浮かぶようです。ただひとつ現代的なものといえば、クリスタルグラスの製作工程を解説するビデオぐらいでしょうか。
さて、いよいよ創設期から今日に至るバカラの華麗なる歴史への旅が始まります。コレクションはテーマごとに3つの空間に展示されていますが、遊び心いっぱいの照明が作品の魅力を引き立ててくれています。 |
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まずは、《大きさに魅せられて》と名づけられた部屋を観てみることにいたしましょう。60本ものろうそくを灯す高さ3mの「皇帝ニコライ2世の大燭台」(1896)や、19世紀当時には、象の背中に乗せられて注文主のマハラジャの元へ届けられたという「フェリエール家具調度品(1883)」といった、大規模な作品が展示されています。まさに《大きさに魅せられて》の名にふさわしい壮大なる作品の数々です。
続いては《錬金術》と呼ばれる円形の部屋で、クリスタル製造の類まれなる技巧が紹介されています。フランス人画家ジェラール・ガルーストが装飾を手がけたこの部屋は、クリスタルの製造に欠かせない水、砂、空気、火の寓意画が描かれた天蓋で覆われています。ガラスケースの中でとりわけ堂々たる存在感を放つのは、水と砂の寓意を表現した、かの有名な一対の「サイモン・ベース」。一面を覆う繊細な彫刻が美しいクリスタル製のこの飾り壷は、ゴールドとルージュ・クリスタルの色被せを施した見事な一品で、製作には2年もの歳月が要されたとか。なんと細やかな手仕事なのでしょう。その繊細な細工は、思わずため息をつくほどの美しさです。 |
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<偉大なるクリエーターたち>という棚をご覧になれば、バカラが常に時代の先端に立ち続けてきた背景に、ジョルジュ・シュヴァリエ(1916-1970)のような優れたアーティストたちの力があったということがお分かりいただけることと思います。幾年にもわたってアート・ディレクターを務めた彼は、製品のフォルムや装飾を革新しながら、バカラに新しい風を吹き込んでいったのです。 |
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▲ガラスのテーブルにバカラの歴代シリーズが並ぶブティック。
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そして、特別注文を受けて作られた素晴らしい作品が並ぶのが、<華麗なる特注品>という棚。注文主は、各国政府や王侯貴族、著名人(ココ・シャネル、オナシス、イランの国王……)。なかには、帝政時代の日本の皇室からの注文品もあります。
また、<遠い国の物語>と題された棚では、1868年頃、装飾芸術の世界に衝撃を与えたジャポニスムの影響が色濃く現れた作品がご覧になれます。「富士山」や「鯉」と呼ばれる飾り壷は、1878年の万国博覧会で出品されたものです。
さらに、1階のブティックでは、クリスタルの脚に支えられた長さ13mのテーブルの上で、バカラが誇る歴代のクリスタル・シリーズのすべてをご覧になることができます。美しい照明のもとで鑑賞する品々のなかには、1841年に初めて製作された「アルクール」など、誕生以来、変わらぬ人気を誇るシリーズもあるのですよ。 |
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最後に、お友だちとして、ちょっとしたアドバイスをひとつ。ランチを召しあがるおつもりでないとしても、「クリスタルルーム バカラ」に立ち寄られるのをお忘れにならないで下さいね。ノアイユ子爵夫人が暮らした頃の食堂を改装したレストランで、フィリップ・スタルクが装飾を手がけたモダンで優美な空間です。ここでは、バカラ一流の“極上”というものが一皿一皿にまで息づいていて、まるで魔法にかけられたかのように、供されるお料理のすべてが見事なのです。
バカラの手で特別な場所に生まれ変わったこの館に一歩足を踏み入れれば、きっと皆さまもその世界に魅了されることでしょう。
親愛をこめて |
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▲レストラン「クリスタルルーム バカラ」。
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▲合衆国広場に面した外観。
© A.de Montalembert |
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▲バカラ・ギャラリーミュージアムの庭。
© A.de Montalembert |
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