Francais 日本語 パリ人形博物館
informations 3 2 1 Paris, le 2 septembre 2008
▲人形博物館。左手がブティック。
©A.de Montalembert
親愛なる日本のみなさまへ

パリの中心、ポンピドー・センターから数間離れただけの場所を走るベルトー袋小路。この趣ある路地裏にひっそりと佇む小さな屋敷に、大人から子どもまで楽しむことのできる人形のミュゼがあります。過去2世紀にも遡るそれはみごとなプライベート・コレクションが収められたこの館には、いつの時代も少女たちに愛され、心の友となってきた人形たちが眠っています。わたくしたちの少女時代を知る人形は、受け継がれてゆくべき大切な遺産のひとつといえましょう。


▲奥に見えるのが人形博物館。
©A.de Montalembert
このミュゼでは、時はその流れを止めてしまったかのよう。そして、人形がこれまでに果たしてきた役割とその魅力を伝えるとともに、訪れる者を夢の世界へと誘います。

それでは、ひとつひとつの部屋を巡り、家具調度品やアクセサリーとともに、1000体をこえる人形たちの歴史を辿ってみることにいたしましょうか。
わたくしがまず驚かされましたのは、1800年から1930年までの人形たちの面立ち。なんと女性らしいお顔でしょう。磁器で作られた頭部にガラスやエナメルの大きな眼がはめ込まれ、口は閉じられ、青白い肌に映えるふっくらとしたばら色のほおをしています。ボディはラムスキンか木製で、手足が曲がるようになっています。

贅沢な装いのこうした人形の多くは、「パリジェンヌ」または「ファッション・ドール」と呼ばれていました。というのも、人形たちはパリの最新ファッションの広告塔という役割を担っていたのです。女性ファッション大使たちは、一流の高級婦人服デザイナーの新作をこれみよがしに身につけ、ミニチュアのトランクをたくさんの朝昼晩のドレスでいっぱいにして各地を旅したのでした。クリノリンのドレスを着た彼女たちは、第二帝政時代の贅沢な流行を、誰よりも雄弁に物語る証人なのです。
▲ヴィクトール・クレマン作《パリジェンヌ》1868年
©Photo Jean Dalmard / Collection Musée de la Poupée-Paris
なんと、皇妃ウジェニー(1826-1920)も、パリジェンヌから衣服や装身具のコレクションの着想を得ていたそうです。美しいものならば、いかようにも着こなしたパリジェンヌたち。その洗練された魅力は一体一体で異なり、それが博物館の人形コレクションをより貴重なものとしているのです。その好例といえるのが、ヴィクトール・クレマンが1868年に製作した《パリジェンヌ》でしょう。洗練されたドレスと繊細な黒いヴェールを身にまとい、ペットたちに囲まれて座る彼女の愛らしいことといったら!彼女のいるサロンは、当時流行の装飾が施されていて、壁にはいくつかの額飾りが掛けられ、上げ蓋のついたスクレテール(書きもの机)の上には双眼鏡や鏡といった身の回りの品々が置かれています。
パリジェンヌは富裕階級の子女にとって教育上の役割も果たしており、模範的な家庭の女主人になることを教えていました。細部まで精巧に仕上げられたすばらしい舞台セットで、パリジェンヌが庭を散歩したり、買い物をしたりする姿を、今日わたくしたちが鑑賞することができるのは、そのためなのです。

▲ブリュー作《ベベ》1883-1889年
©Photo Jean Dalmard / Collection Musée de la Poupée-Paris
19世紀最後の15年間には、子どもらしい美しさを理想化した「ベベ(赤ちゃん人形)」が現れます。まぶたを閉じ、ほんの少し開いた口からは、磁器で作られた小さな歯が覗き、ふっくらとした体つきに、愛らしくにこやかな笑みを浮かべています。子供たちは、人形たちに自らの姿を重ねて遊ぶのです。ブリューが1883年に製作した《ベベ》をご覧になってみてください。フリルのついた絹の帽子がその愛らしい顔によく調和した素晴らしい逸品です。

次のページへ