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ウジェーヌ・ブーダン美術館 backnumber
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▲オンフルール、サンテティエンヌ埠頭
© A. de Montalembert
親愛なる日本の皆さまへ

「印象派」といえば、かの有名な画家クロード・モネ(1840−1926)を中心的存在とする、世界的に知られた絵画の潮流。その発祥の地であるフランス、ノルマンディー地方でこの夏、6月から9月にかけて、印象派を称える一大イベントが催されています。ローラン・ファビウス元首相により創設された「ノルマンディー印象派フェスティバル」です。展覧会や演奏会、演劇のほか、マネの《草上の朝食》にちなんでのピクニック・パーティなど、200を超えるイベントがルーアンやカン、オンフルールなどのセーヌ河流域を「印象派」一色に染め上げるのです。



▲友人の邸宅「ラ・ファルドゥイエール」
© A. de Montalembert

これを機に、わたくしはノルマンディーの小さな港町、オンフルールの程近くに「ラ・ファルドゥイエール」という土地の旧名に由来した名前を持つ美しい邸宅を持つ友人を訪ねることにいたしました。セーヌ河の河口にあって、緑溢れるふたつの丘に挟まれたオンフルールの町は、その独自の立地から、19世紀の芸術家たちに愛された場所。ノルマンディーの海辺ならではの移ろいやすい空模様、美しい風景、そして美しい暮らしぶりが、彼らのインスピレーションの源となったのです。画家たちの手でカンヴァスに刻まれた、魅力溢れる場所の数々は、今なお在りし日のままの姿でこの町に残されています。古い歴史を物語る町並みは美しく、今日も多くのアーティストを惹きつけていますが、その中には日本の方もたくさんいらっしゃるそうです。オンフルールは千年の歴史を持つ町。その長い歴史を物語る建造物がそこかしこに残されているのです。例えば、隅塔を備えた要塞で、かつては町の城門であったリュトゥナンス(旧総督の館/16世紀)や、1万トンまで貯蔵できる塩倉(1671年の建造)。


▲リュトゥナンス(旧総督の館)
©A. de Montalembert

▲オンフルール、ランゴ(金塊)通り
© A. de Montalembert


▲オンフルール、旧ドック
© A. de Montalembert

オンフルールで最もよく知られている場所は、在りし日の姿を残す旧ドックです。細長い家々がびっしりと肩を並べて建つサント・カトリーヌ埠頭。石やレンガ、木など、さまざまな資材で、さまざまな形に造られていながら、なんと美しいハーモニーを見せていることでしょう。旧ドックは、ルイ14世(1638-1715)の治下にウェットドックに改修され、世界の探索に出かける船乗りたちの本格的な乗船港となり、カナダ、アンティル諸島、アフリカの沿岸地域との海上交易で発展しました。漁港は今なお、当時と変わらぬ賑わいを見せ、活気に溢れています。

サント・カトリーヌ地区の散策を続けるといたしましょう。ここは、きっと最もオンフルールらしい場所。モネや、その師であるヨハン・バルトルト・ヨンキント(1819-1891)といった画家たちの手で、幾度となく描かれたとても美しいサント・カトリーヌ教会(15-16世紀)があります。その構造に負担をかけないため、鐘楼は数メートル離れた場所に建てられました。この見事な鐘楼は、現在、ウジェーヌ・ブーダン美術館の別館となっていますので、ぜひ、中に入って木造の造りと宗教彫刻をご鑑賞くださいね。


▲サント・カトリーヌ教会
© A. de Montalembert

▲サント・カトリーヌ教会の鐘楼
©A. de Montalembert

▲クロード・モネ《オンフルール、サント・カトリーヌの鐘楼》1867年
© H. BRAUNER

ここかしこを散策していると、鉄道網が発達し、絵の具チューブと折りたたみ式イーゼルが誕生した19世紀、光の効果を追い求めて旅をし、屋外で制作するようになった画家たちが、なぜ、オンフルールのような場所を見出したのかがよく分かります。彼らは、こうした場所に辿り着いたことによって、風景や日常の光景から得た印象を描出できるようになったのです。
1820年以降、オンフルールは出会いと交流と友情の地になります。まず初めに、ボニントン(1802-1828)やターナー(1775-1851)らイギリスのロマン派の画家たちと、ポール・ユエ(1803-1869)、ウジェーヌ・イザベイ(1803-1898)らフランスのロマン派の画家たちがこの地を訪れ、コロー(1796-1875)やトロワイヨン(1810-1865)、ドービニー(1817-1878)らバルビゾン派の風景画家たちが、それに続きました。


▲サン・シメオン農場
© A. de Montalembert

そして19世紀後半、ともにオンフルール生まれのウジェーヌ・ブーダン(1824-1891)と、その友人のアレクサンドル・デュブール(1821-1891)は、ギュスターヴ・クールベ(1819-1877)やヨンキント、バジール(1841-1870)、そしてモネといった画家たちと、つましい宿屋を備えた保養地「サン・シメオン農場」に集まり、およそ15年間にわたって交友を結んだのでした。彼らは、宿屋で和気あいあいと食事や酒を楽しみ、戸外ではイーゼルを並べて海景や風景、港の通り、空を描き、互いに助言を惜しみませんでした。中でもモネはずっと年上だったブーダンとヨンキントを自らの師と仰ぎました。


▲サン・シメオン農場のホテル
© A. de Montalembert

「サン・シメオン農場」はオンフルールの中心部から程近くにありますが、もしかしたら、かの有名な安宿「サン・シメオン」をお探しになる方もいらっしゃるかもしれませんね。お伝えしておきますが、今ここは豪華な高級ホテルになっているのですよ!


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