ユニークな現代美術展を仕掛けることで有名なカルティエ現代美術財団ですが、この北野武展では最初の週末だけで4,000人近くが来館、入り口には長蛇の列ができました。この数字は、これまで財団が開催した展覧会の中でも記録的で、オープン早々、現代美術の領域からすれば“大成功”の可能性を示唆しています。
会場に入ると、まず3m以上あるポップな色使いの《恐竜》と、蒸気機関車によって動く《北野式ソーイングマシン「秀吉」》が目を引きます。天井から吊られた円形ストラクチャーにはダルマが固定され、ジェットコースターのように会場をぐるりと取り巻いています。《大江戸パペットシアター》では、音楽に合わせて獅子舞や連獅子が上下し、楽しげなリズムを刻んでいます。またセロファンに印刷された北野絵画がガラス張りの建物をぐるりと取り込み、会場内に色のついた日だまりをつくっています。色彩溢れる会場は、まるでおもちゃ箱を引っくり返したかのよう。思わずクスリと笑ってしまうような仕掛けが、あちこちにちりばめられています。日本人には馴染み深い「ビートたけし」の“お笑い”の世界です。
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しかし、作品を解釈したり分析したりすることを習慣とする、現代美術界(特にフランスの)の専門家たちは戸惑うかもしれません。確かに、作品に社会や美術界への批判や哲学的な意味を読み取ることはできるでしょう。けれども、ギャグを説明するのが野暮なように、分析を試みれば試みるほど、最初に感じた単純なおかしさは失われ、作品の理解からは遠ざかってしまいます。とらえようとすればするほど、するりと逃げてしまうのです。現代美術はしばしば難解で、業界で共有される基礎知識を持った一部の人にしか理解できないことも多々あります。本展覧会は「分かりやすくて、大人も子どもも理屈ぬきに楽しめるもので何故いけない?」と問い返し、頭でっかちな批評を軽くかわそうとするかのようです。
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![]() © Office Kitano Inc. Photo Grégoire Eloy |
北野氏は本人によれば美術作家ではなく、また、この展覧会によって作家活動をスタートさせるというような意図も今のところないようです。美術館という普段活躍するテレビ業界とは異なる場で、ただただ存分に遊んでいるかのように見えます。“笑い”が、場違いなものや予想外の反応など、ある種のズレが生じたときに起こるものだとすれば、本展は企画そのものが、まさに北野的“お笑い”の世界なのかもしれません。
来館者は、ときには首を傾げ戸惑いつつも、「キタノの世界」を楽しんでいるようでした。小さな子どもからお年寄りまで、ここまで幅広い年齢層の人々の関心を引く展覧会というのも珍しいでしょう。現代美術館でこれほど多くのベビーカーを見たことはありません。独創的な企画が求められる現代美術界において、カルティエ現代美術財団は、他分野の非凡な才能を持ち込むことで、活路を見出そうとしたのかもしれません。財団と北野武との出会いは、一般観衆にはおおいに受け入れられているようです。この展覧会が美術界でどのような反応を引き起こすか、今後の動きに注目したいと思います。
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- 所在地
261 boulevard Raspail 75014 Paris - Tel
+33 (0) 1 42 18 56 50 - Fax
+33 (0) 1 42 18 56 52 - URL
http://fondation.cartier.com - 開館時間
12:00-20:00 - 休館日
月曜日 - 入館料
一般:6.5ユーロ
割引料金:4.5ユーロ
10歳未満:無料 - アクセス
地下鉄ラスパイユ(Raspail)駅下車
- 会期
2010.3.11-9.12 - URL
http://fondation.cartier.com/
kitano-expo/index.html
- インフォメーション・センターでは、「北野武/ビートたけし『絵描き小僧』」展のカタログとパンフレットを閲覧いただけます。

- 『絵描き小僧』展のカタログは、注目の一冊でも紹介しています。
*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。