“色彩の魔術師”と称され、日本でも人気の画家シャガール(Marc Chagall)。フランスで活躍した“パリの異邦人”として知られる画家ですが、シャガールの生まれ故郷は旧ロシア帝国。7月3日(土)から10月11日(日)まで、東京藝術大学大学美術館で開催中の展覧会「シャガール―ロシア・アヴァンギャルドとの出会い」は、この画家をロシア側の視点からとらえた意欲的な試みです。同時代に活躍したロシアの画家たちとの競演で見えてくるシャガールの実像――。今回は、そんな新たな画家の姿に出会うべく、東京藝術大学教授で本展の企画に深く関わった薩摩雅登先生にお話を伺いました。
「ロシアで私が描いた絵が、ヨーロッパの画家たちの絵の隣に展示されるのは奇妙なことでしょう。それらはむしろ、20世紀初頭のロシア美術のための美術館にふさわしい場所を見出さねばならないのです」
これは、シャガールが生前に語った言葉です。今回の「シャガール―ロシア・アヴァンギャルドとの出会い」展は、この画家の言葉を体現したかのような、画期的な展覧会です。
「日本では、シャガールは戦後の“パリの異邦人”というイメージで語られることが多い画家です。シャガールは1887年7月6日、旧ロシア帝国のヴィテブスク(現在のベラルーシ共和国)で生まれました。ヴィテブスクは、人口の半数がユダヤ人でした。ユダヤ人社会で育った画家は、第一次世界大戦、ロシア革命、第二次世界大戦を体験し、南仏のヴァンスで97年の生涯を閉じることになります。この激動の時代をユダヤ人として生き抜いたシャガールが背負っていたものは、その作品イメージよりもずっと、複雑なものであったはずです」
薩摩先生がこう語るように、今回の展覧会における重要なテーマのひとつは、ロシアで生まれたユダヤ人としてのシャガールです。そして、私たちが思い描いていた従来のエコール・ド・パリの画家というくくりではなく、「20世紀ロシア美術界における画家」という位置づけで彼の作品を見た時、そこにより重層的で深淵な作品世界が浮き彫りになることに、驚かされるでしょう。
祖国を持ち得なかったユダヤ人シャガールの、切ないほどの故郷や家族への愛情、異国で大半の時を過ごした自らの人生を投影したかのような夢幻性――。こうしたシャガールの“心の世界”に焦点を当てるとともに、本展ではゴンチャローワ(Natalia S. Gontcharova)やマレーヴィチ(Kasimir Malevitch)といった同時代のロシア・ソ連邦の画家たちの作品も紹介しています。
「本展では、ロシア人としてのシャガールの作品と、同時代のロシアの画家たちの作品を並置・対置しています。ゴンチャローワ、ラリオーノフ(Mikhail F. Larionov)、カンディンスキー(Vassily Kandinsky)、マレーヴィチらロシアの画家たちとシャガールの競演といえるでしょう。本展を通して、新たなシャガール像を再発見していただくとともに、さらに20世紀ロシア美術の魅力に出会っていただければとても嬉しく思います」(薩摩先生)。
次のページからは、薩摩先生と一緒に展示室を巡り、各展示室のテーマと注目の作品をご紹介していただきます。
- 会期
2010年7月3日(土)〜10月11日(月・祝) - 会場
東京藝術大学大学美術館[上野公園] - 所在地
東京都台東区上野公園12-8 - Tel
03-5777-8600(ハローダイヤル) - URL
美術館
http://www.geidai.ac.jp/museum/ - 開館時間
10:00-17:00
金曜日は20:00まで
*入館は閉館の30分前まで - 休館日
月曜日
*ただし月曜日が祝・休日の場合は開館し、翌日休館 - 観覧料
一般:1,500円
高校・大学生:1,000円
中学生以下:無料 - 巡回展(福岡市美術館)
2010年10月23日(土)〜2011年1月10日(月・祝)
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