

メゾン・デ・ミュゼ・ド・フランス(MMF)のある銀座界隈には 企業が運営する美術館やギャラリーなどが、数多く点在しています。銀座のMMFにお越しの際、併せて訪問いただきたいこうしたアートスポットをご紹介してまいります。
「銀座界隈アートスポット巡り」。連載第1回にあたり、「ルオーと風景―パリ、自然、詩情のヴィジョン―」展を開催中(7月3日まで)の「パナソニック電工 汐留ミュージアム」を訪ねました。ルオーと聞いて、まず頭に浮かんだのはサーカスのピエロやキリストの絵ですが、今回の展覧会のテーマは「風景」。その思いがけない組み合わせに好奇心をそそられつつ、汐留に向かいました。

- 所在地
東京都港区東新橋1-5-1
- Tel
03-5777-8600
(ハローダイヤル)
- 観覧料
一般:500円 小中学生:200円
大高生:300円 シニア:400円
*障がい者手帳をお持ちの方は無料(付き添いの方1名は無料)
(特別展期間中は別途料金を定めることがあります)

- アクセス
JR新橋駅「銀座口」より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より 徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅「3・4番出口」より徒歩1分 パナソニック電工本社ビル内4階
- 開館時間
10:00-18:00(ご入館は17:30まで)
*当面は17:00閉館

▲《人物のいる風景》は、今回のルオー展のチラシで大きく紹介されている
美術館があるのは汐留のパナソニック電工東京本社。ショールームのある1階から美術館フロアの広がる4階へエレベーターで上がります。会場に足を踏み入れ、初めに目を奪われたのは、ルオーが26歳の時に描いた最初の風景画《人物のいる風景》(1897年 パナソニック電工 汐留ミュージアム)です。レンブラントを思わせる微妙な陰影表現がなんともきれいで、見る者を異次元へと誘うかのような絵画世界を見ながら、ルオーの師が象徴主義の先駆者モローであったことを思い出しました。ルオーは聖書を題材にした大胆な画風の絵がよく知られていますが、画業の初期のこうした精緻な神話画は、今まで見たことがありませんでした。
この作品を皮切りに、生まれ育ったパリの下町や、父親の故郷ブルターニュ地方を描いた作品も紹介されていきますが、ルオーが一時期、ヴェルサイユに暮らしていたということは、この展覧会へ来て初めて知りました。ピアノ教師をして家計を助けていたルオーの妻がヴェルサイユで開いたピアノの演奏会が好評で、生徒がたくさんとれたために一家で引っ越したそうで、会場にはヴェルサイユ宮殿の庭園をモチーフにした作品が飾られていました。無名時代をピアノ教師の妻に支えられた画家といえば、20世紀ドイツで活躍したパウル・クレーも有名です。ルオーもクレーも頑固に純粋に自らの芸術を追求した画家ですが、しっかり者の妻がいたからこそできたことなのかもしれませんね。
このヴェルサイユ時代の作品も含め、今回のルオー展には、計14点がフランスから貸し出されています。東日本大震災の影響から、作品の貸し出しに難色を示す海外の美術館も多いなか、ルオー財団が「こんなときだからこそ」と心意気を見せてくれたそうです。こうして、国内外から集められた作品に汐留ミュージアムのコレクションを加えた約90点の作品をたどってみると、ルオーが身近にある風景を独自の静謐な宗教画へと昇華させていった過程がとてもよく分かります。ルオーのキリストの多くは、ごく普通の暮らし、そしてごくありきたりの風景の中に入り込んだような庶民的な姿で描かれています。自らを取り巻く世界を愛したルオーは、それを聖書の世界に取り込むことで、あの親しみやすい宗教画を作り出したのです。「ルオーと風景」。意外なようで、じつはルオー芸術の核心に迫る組み合わせでした。
さて、今回の展覧会、ルオーのほかにもうひとり注目の脇役がいました。「次世代照明」です。今回のルオー展の開催にあわせて、汐留ミュージアムは館内のすべてをLED照明と有機EL照明(試作品)による次世代照明に変更しました。
LEDといえば「省エネ」というキーワードがすぐに思い浮かびます。今回のリニューアルで消費電力が従来よりが50%削減されたといいます。しかし、LED照明を美術館で採用するメリットはそれだけではありません。LEDは、赤みの強いハロゲン電球(白熱灯)より自然な光色で表現できるうえに、紫外線や赤外線などの有害光線が少なく、展示品への影響を抑えることができるのです。今回参加したギャラリートークでは、いくつかの作品でハロゲン電球とLEDによる作品の見え方を比較することができました。確かにLED照明の下での方が、陰影表現がより豊かに見え、青や緑などの微妙な色合いが引き立つなど、作品が異なる表情を見せることに驚きました。ルオーが生きた時代、画家たちはアトリエで自然光のもと描いていました。つまり、次世代照明によってわたしたちは、画家たちの意図により近い色で作品を鑑賞することができるのです。

▲今回、導入された有機EL照明は、超薄型、面発光、低発熱という特長を持つパナソニックの自社開発製品(試作品)。ペンダントライトや展示解説パネルなどに利用されていました。
「パナソニック電工 汐留ミュージアム」。その魅力は、すぐれた「ルオー・コレクション」そして、日本が世界に誇る家電メーカーがその威信をかけて追求する、「美術館照明のかたち」にありました。これまで美術館の照明に気を留めたことはありませんでしたが、これからはちょっと、気になるポイントになりそうです。
当ミュージアムは、世界で唯一「ルオー」の名前を冠する美術館です。館内の常設展示スペース「ルオー・ギャラリー」では、当館のルオー・コレクション(初期から晩年までの油彩画や代表的な版画作品など約220点)から、そのときどきのテーマにあわせた作品をご覧いただけます。また、フランスのジョルジュ・ルオー財団と共同企画により、これまで日本ではあまり知られてこなかったルオーの実像に迫る展覧会を定期的に開催しております。また、パナソニック電工の事業と関わりの深い「建築」「生活文化」をテーマとする企画展にも取り組んでおり、次回は7月16日(土)から9月25日(日)まで「濱田庄司スタイル展」を開催します。ルオー展に引き続き、どうぞご期待ください。
パナソニック電工 汐留ミュージアム 増子美穂主任学芸員