1485年頃 油彩/板
アンブロジアーナ図書館・絵画館所蔵
©Veneranda Biblioteca Ambrosiana - Milano/De Agostini Picture Library
世界一その名を知られている芸術家といっても過言ではないレオナルド。美術史上の“大スター”であるレオナルドですが、実は現存する油彩画は十数点にすぎません。寡作の画家として有名なフェルメール(Johannes Vermeer/1632-1675)でさえ、三十数点の作品が現存することを考えると、レオナルドの油彩画がいかに希少かということが分かるでしょう。さらに、今回来日したこの《音楽家の肖像》は、レオナルドの油彩画の中で唯一の男性肖像画です。《モナ・リザ》などの女性肖像画に見られる、柔らかな表現とはまたひと味違う、男性ならではの硬質な描写にも注目してみてください。
《モナ・リザ》と同様、この作品のモデルにも諸説あり、いまだ明確な答えは出ていません。これまで、ミラノ公、スフォルツァ家の宮廷にいた人物などと、さまざまな説が提示されてきましたが、1905年の修復で、それまで塗りつぶされていた部分から楽譜を持つ手が発見されてからは、モデルは音楽家であるといわれています。中でも、レオナルドの友人で、1482年、レオナルドに同行してミラノにやって来た音楽家、アタランテ・ミリオロッティ(Atalante Migliorotti/1466-1532)であるとの説が現在最も有力視されています。実はアタランテに楽器の演奏を手ほどきしたのは、レオナルド自身であったともいわれているとか。レオナルド作品には、モデルにまつわる謎がつきものですが、そうした謎多き点も、多くの人々を魅了する理由のひとつなのかもしれません。
1本、1本、丁寧に描かれた金髪、真っ直ぐに通った鼻筋と男性らしいしっかりとしたほお骨や顎がつくりだす陰影。解剖学にも精通したレオナルドが鋭い観察眼でとらえた表情からは、モデルとなった音楽家の精神性までも伝わってくるかのようです。レオナルドはモデルの精神性を、「魂の動き」と呼んで、肖像画を描く際にとても重要視したといいます。理想化されて描かれることが多かったルネサンスの肖像画の中で、レオナルドの手による肖像画がまるで生きている人物のように特異な光を放つ理由は、モデルの魂までも描き出そうとする“観察の人”レオナルドの情熱によるものかもしれません。《音楽家の肖像》の謎に包まれたモデルがどんな人物だったのか――? 500年以上も前に描かれた1枚の板絵は、時代を超えて、見る者にさまざまなイマジネーションを投げかけます。
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