メゾン・デ・ミュゼ・デュ・モンド(MMM)のある銀座界隈には企業が運営する美術館やギャラリーなどが、数多く点在しています。銀座のMMMにお越しの際、併せて訪問いただきたい、こうしたアートスポットを中心にご紹介してまいります。
今回は、1952年に東京・京橋の地に誕生し、昨年、開館60周年を迎えた「石橋財団ブリヂストン美術館」を訪ねました。お目当ては「カイユボット展 - 都市の印象派」(2013年12月29日まで)。印象派を中心とする優れたコレクションを有する同館だからこそ実現した展覧会です。
モネやルノワールとともに印象派を代表する画家のひとりに数えられるギュスターヴ・カイユボット(1848-1894)。とはいえ、その名を聞いて作品を思い浮かべることのできる方はそう多くはないかもしれません。それもそのはず、日本ではこれまでカイユボットの作品がまとまって展示されたことはなく、本展が日本で初めての回顧展なのです。
ブリヂストン美術館の学芸課長新畑泰秀氏によれば、世界的にも、カイユボットの回顧展はあまり開催されてきておらず、その背景には、いくつかの理由があるといいます。まずは、カイユボットは45歳で早世した
ため、遺された作品が500点あまりと少ないこと。モネやルノワールが数千点という作品を描いたのと比べれば、圧倒的な少なさです。パリの裕福な実業家の家に生まれたカイユボットは、経済的に恵まれないモネやルノワール、シスレーらの作品を購入して彼らを支援したことで知られています。一方彼自身は売るための絵を描くことにも、自らの作品を売ることにも関心がなく、結果として寡作であることにつながりました。
回顧展の開催が難しいもうひとつの理由は、美術館の所蔵作が非常に少ないこと。オルセー美術館で5点、シカゴ美術館で2〜3点、そのほか多くが個人コレクションというから驚きです。今回の展覧会は、2012年にカイユボットの代表作《ピアノを弾く若い男》を新規収蔵したブリヂストン美術館が、所蔵館ならではのネットワークを駆使して世界各国の美術館や個人コレクションから作品を集め、実現することのできた展覧会なのです。
日本初のカイユボット展。その見どころを3つのポイントから紹介します。ひとつ目はもちろん出品作。展示作の約60点は、「印象派展出品作」を12点も含む充実のラインナップです。「印象派展出品作」とは、印象派の画家にとって最重要の作品であることの証です。本展では、同館の収蔵品《ピアノを弾く若い男》や小説家ユイスマンスが称賛した《窓辺-室内の女性》、そして《ヨーロッパ橋》などがそれに当たりますが、いずれも「都市の印象派」と呼ばれたカイユボットのモダンで斬新な世界が広がり、19世紀末パリの空気が感じられるような傑作揃いです。
ふたつ目の見どころは、カイユボットの弟マルシャルが撮影した約100点の写真作品です。近年、写真家としての評価が進むマルシャルの手による写真には、当時のパリやカイユボット家の様子が活き活きと映し出されており、日本初公開です。
そして3つ目は、今回、ブリヂストン美術館とDNPアートコミュニケーションズが本展のために共同開発したソリューションです。中でも注目は「カイユボットのパリ」をテーマにした展示。フロアに設置された大きな19世紀の古地図上に立って電子端末を操作すると、自分がいる地図上のポイントにゆかりのあるカイユボットの作品や情報が現れ、当時のパリを歩いているような気分でカイユボットへの理解を深めることができる仕掛けになっています。そのほか、作品を部分拡大し、細部まで鑑賞できるツールや人物相関図のタッチディスプレイもあり、実際の作品を鑑賞する合間に、見て、触れて作品へアプローチする楽しさを体感させてくれます。
世界に誇る印象派コレクションを有するブリヂストン美術館が満を持して開催する、日本初のカイユボットの回顧展。今季必見の展覧会です。ぜひ、足をお運びください。
カイユボットは、モネやルノワールとともに印象派を代表する画家です。変貌著しい19世紀末パリの近代的都市風景を、写真を思わせる大胆な構図、柔らかな光にあふれる画面にとどめました。本展は、いまだ知られざる画家カイユボットの全貌を日本、そしてアジアで初めて紹介する展覧会です。会場ではまた、DNPアートコミュニケーションズのプレゼンテーション技術を駆使して、画家をさまざまに紹介しています。ぜひ、ご来場ください。 石橋財団ブリヂストン美術館 学芸課長 新畑泰秀