ピナコテーク・ド・パリ(パリ絵画館)で、2015年2月12日から6月21日まで、「クリムトの時代―ウィーン分離派展」を開催中です。世紀末のウィーンで、新しい芸術のムーブメントである分離派の旗手となったグスタフ・クリムト(Gustav Klimt/1862-1918)。甘美で官能的なクリムト独特の世界は、時に批判の対象にもなりながら、斬新な芸術表現として世紀末から20世紀初頭にかけて一世を風靡しました。本展ではウィーンのベルヴェデーレ宮殿のコレクションを中心に、分離派の生んだ革新的芸術の世界をクリムトの傑作とともに振り返ります。
19世紀末のウィーンで、アカデミックで保守的な旧来の芸術からの脱却を目指して展開された前衛芸術運動をおこしたグループが、グスタフ・クリムト率いる「ウィーン分離派」です。折しも若くして即位したフランツ・ヨーゼフ一世(Franz Joseph I/1830-1916)が、オーストリア・ハンガリーの二重帝国を統治する時代。宗教、文化、言語の異なる多数の民族が入り混じる複雑な国家環境のもと、クリムトが中心となりウィーン分離派は誕生しました。伝統にとらわれない新しい芸術表現を目指すこのグループは、イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動、フランスのアール・ヌーヴォー様式からも影響を受け、絵画、工芸、彫刻、建築と、多岐にわたる分野のアーティストが名を連ねていました。アーティスト各々の個性を尊重したことから、ウィーン分離派には異なる感性が入り混じり、メンバーそれぞれの作風に際立った共通点というものは見られないのが特徴です。決して過去の美意識を否定するのが目的ではなく、現代性と国際性を目指すことを目的として、保守的なウィーンの芸術団体キュンストラーハウス(Kunstlerhaus)から独立する形でウィーン分離派のムーブメントは展開されました。
ピナコテーク・ド・パリで開催中の本展では、この革新的な芸術家集団の軌跡を、19世紀末から20世紀初頭にかけて180点の作品とともに辿っていきます。プライベートコレクションやウィーンのベルヴェデーレ宮殿のオーストリア・ギャラリーより貸し出された展示作品の核を成しているのは、クリムトの作品の数々。アカデミスムの影響を色濃く見せる初期の作品に始まり、黄金期の代表作が贅沢に集められ、クリムトの芸術活動の道のりを生涯にわたって振り返っています。中でもクリムトの傑作《ユディトI》は、オーストリア国外に貸し出されることがたいへん稀な、本展の目玉作品です。また展覧会の開催地であるパリをキーワードに、世紀末にパリで活動したウィーンの芸術家たちの様子を追い、パリの風景画やクリムトが1900年のパリ万博で受賞した貴重なメダルの展示などを行っています。
肖像画、風景画、写真、建築、陶器、またウィーン工房のメンバーによる家具、アクセサリー作品など、ウィーン分離派の提言した「総合芸術」が、100年の時を経てパリジャンをあらためて魅了しています。
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Update : 2015.5.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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