フランス北部ノルマンディーの海沿いの都市ディエップから車で20分ほどの場所に位置するサン=ニコラ・ダリエルモン。この町は18世紀初頭から20世紀後半にかけ、フランス国内屈指の時計製造の地として栄えました。2007年に開館した時計製造博物館は、長きにわたり地域に根ざした、きめ細かい精密機械工業の文化とノウハウを今に伝えています。
サン=ニコラ・ダリエルモンで時計製造の歴史が始まるのは、今から約3世紀前の1725年のこと。ディエップで時計職人をしていた父親が亡くなったのを機に、同じく時計職人であったその息子シャルル=アントワーヌ・クルット(Charles-Antoine Croutte/ 1699-1728)がこの地へやってきて、アトリエを構えたことに端を発します。
サン=ニコラ周辺は鉱石や木材など、豊かな自然や資源に恵まれており、材料を調達しながら時計の製造をするのに、たいへん適した土地であったのです。
18世紀から19世紀末にかけ、振り子の大型時計、暖炉用の置時計、また旅行用の携帯時計など、時代に呼応しながらサン=ニコラは一貫して時計製造の歴史を重ねます。
20世紀に入るとサン=ニコラの時計製造業はさらなる発展を遂げ、航海用のクロノメーターや、工場や公共の交通機関のタイムレコーダー、スピード測定器といった科学分野にも進出しました。数世紀にわたり多くの精密機械を世に送り出したサン=ニコラで、変わらぬテーマであり続けたのはその「正確さ」です。また目覚まし時計のメーカーとして世界的に有名なフランスのバイヤール(Bayard)社が1980年代末まで本拠地を構えていたのも、このサン=ニコラでした。
サン=ニコラ・ダリエルモンにあった時計・精密機械の工場は、1990年代までにすべてが閉鎖されてしまいましたが、コレクションの収集は1978年より地元のアソシエーションによって行われていました。それらが町に寄贈されたことにより、現在の時計製造博物館の開館が実現します。2007年に扉を開いたばかりのこの時計製造博物館は、学問、歴史、遺産、美学のすべての面で質と豊かさを備えた博物館として、フランス政府による「ミュゼ・ド・フランス」に認定されています。
アソシエーションの職人によるメンテナンスによって、今もサン=ニコラの伝統的な時計は時を刻み続けており、博物館の展示室に入ると心地よい振り子時計の音に包まれます。見学中に時報の鐘が一斉に鳴り響くのも、この博物館の魅力のひとつでしょう。博物館のコレクションは現在2,000点にも上り、常設展ではそのうち400点が展示されています。家庭用の時計から、科学分野での精密機器まで、時代と分野を越えた大変豊かな内容のコレクションを誇っています。
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Update : 2015.11.1 文・写真 : 増田葉子(Yoko Masuda)
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