10月10日(土)から東京・丸の内の三菱一号館美術館で、「プラド美術館展――スペイン宮廷 美への情熱」が開幕しました。スペイン・マドリードの国立プラド美術館は、世界中の美術ファンがあこがれる美の殿堂。今秋、もっとも注目を集める本展の魅力をレポートします。
1819年に王立美術館としてスペイン・マドリードに開館したプラド美術館のコレクションは、15世紀以降の王たちが、情熱を傾けて収集した作品が核となっています。そのため、豊かな審美眼を持つ歴代王たちの趣味が色濃く反映された、個性的な作品群がこの美術館の大きな魅力のひとつです。
今回の展覧会は2013年にプラド美術館で、翌2014年にバルセロナで開催され、大成功を収めた展覧会を再構成した特別バージョン。もちろん、国外では初めてお披露目される内容で、日本ではこの三菱一号館美術館のみの単館開催という、とても贅沢な展覧会です。
開会式でプラド美術館のミゲル・スガサ(Miguel Zugaza)館長が「この展覧会開催によって、三菱一号館美術館は、宝石で満たされた宝石箱に変わりました」と自信たっぷりに語った言葉通り、王たちが愛した102点の“宝石”が東京・丸の内で輝きを放っています。
▲ルーベンス自身が下絵として描いた《アポロンと大蛇ピュトン》(手前ガラスケース内)を元に、ルーベンスの指揮下で仕事をした画家コルネリス・デ・フォスが仕上げた油彩(奥)。下絵と完成作の両方を鑑賞できる展示もユニーク
プラド美術館展は、日本では過去に2回開催されたことがあります。本展は、日本で開催される3度目のプラド美術館展となりますが、過去2回の展覧会とは大きくその性格を異にします。それは、今回出品されている作品はどれも小さな作品ということです。「絵画には、その大きさによってふさわしい価値と印象がある」というのは、開会式での高橋明也館長の弁。
たとえば大きな絵には、教会や城、宮殿などの大空間を飾るという役割があります。一方で、小さな作品は、まるで手にとって見るために制作されたかのように、私的な楽しみを与えてくれるのです。そして、大きな作品では、工房の弟子の手が入っていることも少なくありません。しかし、小さな作品はほぼ100パーセントに近いレベルで、画家本人が描いているため、細部に至るまでクオリティが保たれているものが多いのも事実です。
「絵をディテールまで見る喜び、そして絵を鑑賞するという楽しみを最大限に感じていただける展覧会」とは、今回の担当学芸員である三菱一号館美術館の安井裕雄氏の言葉。小さな作品に秘められた巨匠のひと筆ひと筆の美しさを、間近で鑑賞できる展覧会です。
15世紀後半からネーデルラントで活躍したヒエロニムス・ボス(Hieronymous Bosche/1450頃-1516)は、現存する真筆がわずか20点という寡作の画家です。そのため、世界中の名だたる美術館を訪れても、ボスの真筆に出会えるのは稀なこと。画家の生きた時代にあっても、その作品は高く評価され、ボスの死後、スペイン王フェリペ2世(Felipe II/1527-1598)は、ボスの多くの名作を収集しました。その遺産は、現在プラド美術館の至宝として収蔵されています。今回はそのボスの真筆のうちの貴重な1点が、はるか海を越え来日しました。
《愚者の石の除去》と冠された本展出品作は、現存作品の中で唯一の風俗画でもあります。ネーデルラントでは頭の小石が成長すると愚か者になるため、それを除去する手術が必要と考えられていました。作品の上部には「先生、どうか石を早く取り除いておくんなさい」との銘文が記されています。さて、「愚行」を意味する漏斗を頭にかぶった医者が、患者の頭から取り出したものは、いったい……。思わずクスっと笑ってしまうようなその答えは、実際の絵の前に立って確かめてください。
次ページでは、三菱一号館美術館の高橋明也館長の
「お気に入りの作品」をご紹介します。>>
*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。