「2052年、美術が禁止され、かろうじて代表的な80点余りだけを一時的に残すことができました。近代・現代美術を記憶で後世に伝えようとするとき、あなたにとって何が大切ですか――」
フランスのポンピドー・センター=メッスで3月27日まで開催中の「空想美術館 〜もしも美術品が消滅したら?」展では、観客にこう問いかけます。本展を共同企画したポンピドー・センター=メッス、ドイツのフランクフルト・モダンアート美術館、イギリスのテート・リヴァプールが所蔵する彫刻、インスタレーション、絵画、写真が、自分なりの答えを出すためのヒントを与えてくれます。
▲ポンピドー・センター=メッスからのふたりのコミッショナー。研究・展覧会担当者、アレクサンドラ・ミュレールさん(左)と、同センターの元企画責任者で、現在はニース近代・現代美術館長のエレーヌ・ゲナンさん(右)
4人のコミッショナーのひとり、エレーヌ・ゲナン(Hélène Guenin)さんは元ポンピドー・センター=メッスの企画責任者で、今年からニース近代・現代美術館の館長を務めています。ゲナンさんは、企画をこう説明しました。
「ふたつの文学作品が、この展覧会の企画にインスピレーションを与えました。ひとつは、フランスの作家、アンドレ・マルロー(André Malraux/1901-1976)のエッセイ『空想美術館』です。マルローは、美術品の複製写真を組み合わせて、誰もが、実際にはない美術館を空想の中で作り上げることができると表明しました。もうひとつは、アメリカの作家、レイ・ブラッドベリ(Ray Bradbury/1920-2012)のSF小説『華氏451度』です。この小説は、近未来、本を所持することも読むことも禁止されたとき、暗記して本の内容を後世に伝えていこうとする人たちがいた、という物語です」
コミッショナーたちは、マルローからは「空想美術館」という概念を、ブラッドベリからは芸術が禁止されたときに人はどうするか、という仮定を取り入れました。
「美術が消えていく運命にあるとき、自分はどの作品を記憶の中に残し、どんな美術館を頭の中に作ろうとするだろうかを入場者が考え、自分と美術の関係に思いを巡らすことができるようにするのが、本展の狙いです」と、もうひとりのコミッショナーで、ポンピドー・センター=メッスの研究・展覧会担当者、アレクサンドラ・ミュレール(Alexandra Müller)さんは言います。
マルローの『空想美術館』は「ル・ミュゼ・イマジネール(le musée imaginaire)」、この展覧会に冠した「空想美術館」は 「アン・ミュゼ・イマジネ(un musée imaginé)」と、フランス語では単語が微妙に異なっています。マルローのほうは「空想美術館」という観念を語っており、本展は「観客一人一人の頭の中に作られたひとつの美術館」という、より具体的なイメージを出しているからです。
Update : 2017.2.1 文・写真 : 羽生のり子(Noriko Hanyu)
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