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エルヴェ・オグエ扇子美術館マダムの連載の一部(10館)が本になりました。 バックナンバーを読む
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親愛なる日本の皆さまへ

パリ中心部の劇場街、サン・ドニ門(1672年)とサン・マルタン門(1674年)の間を走る大通りに面した建物の中に、小さいながらも正統派の美術館「エルヴェ・オグエ扇子美術館」があります。今から20年前、1993年に設立されたこのミュゼは、女性のエレガンスに大きく貢献したファッションアイテム「扇子」だけを対象としたフランスで唯一の美術館です。

美術館にその名を冠するエルヴェ・オグエが、この場所にあった扇子のメゾン―19世紀からの伝統を受け継ぐ老舗の扇子メゾンのひとつでした―を買い取ったのは、1960年のこと。16世紀から現在までの扇子と美術館の入る建物からなる彼の驚くべきコレクションは、今日では2,000点を数え、そのうち22点は歴史的建造物として登録されています。

このミュゼのとりわけユニークな点は、現役の扇子作家であるエルヴェの娘、アンヌ・オグエのアトリエが館内にあることです。彼女はオグエ家の伝統、そして1872年に木工職人だった祖父の技術を受け継いでいるのです。このアトリエは19世紀以来、舞台や映画、オートクチュール(ディオール、ヴィトンなど)のための制作の舞台となってきた場所。現在では、扇子の修復も行われています。わたくしたちが見学した折には、ふたりの修復家が非常に繊細な作業を手掛けていました。そのそばには、「話しかけないでください」という但し書きが。修復はとても集中力を要するお仕事。パリで扇子の修復を手掛けるアトリエは、今やここだけとなりました。

美術館とアトリエはエレベーターのない建物の4階に位置し、一見するとごく普通のアパルトマンのよう。建物内には扇子が美しく飾られた品揃えのよいブティックもあり、扇子を買うこともできます。

最初の部屋に展示されているのは、プレス機、ノコギリといった扇子制作のための道具類。田舎風の小さな家具は仕事台です。大きな展示ケースには、木(黒檀、紫檀)、骨、アフリカ象やインド象の象牙、鼈甲、角など、さまざまな素材でできた、驚くほど多種多様な扇子の骨が展示されています。扇子の骨はデッサンを基にした型紙から作ります。かなめを中心に回転するように端をひとつにまとめてあり、扇子が閉じているときは外側の骨だけしか見えません。小さな展示ケースには、シドニーの真珠層や、1875年から流行したゴールドフィッシュと呼ばれる日本産の真珠層をはじめとする、ありとあらゆる種類の真珠層で装飾が施された骨がたくさん展示されています。骨に真珠層を取りつけるのは、非常に繊細な作業。真珠層の色の繊細なニュアンスに従って、中央の最も濃い赤から順番に並べていくのです。

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