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人類博物館マダムの連載の一部(10館)が本になりました。 バックナンバーを読む
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人類の身体を形態論的に分析した展示ケースでは、時間の流れの中での身体の変遷がよく分かります。1億5000万年前、最初の哺乳類は歯が52本あり、3200万年前になると、顎には32本の歯しか入らなくなりました。この数は、19世紀の歯列が示すように現在でも変わっていません。自然と文化の間でゆれる人類の身体の概観を示す壁の展示に、わたくしは思わず目を見張りました。人間はそのDNAをほかの種(サンゴ、鳥、大きな猿など)全体と共有していますが、身体を強調したり、変化させたり、飾ったりする特有の行動が見られます。ピアスやタトゥー、スカリフィケーション(身体装飾の一種)を施した人々の20世紀の写真がそのことを示しています。中央には、照明を落としたアルコーブがあり、人間を解剖学的にかたどった蝋の作品が置かれています。18世紀には、人間の内部をかたどった蝋細工は称賛の的となり、アンドレ=ピエール・パンソン(1746-1828)の彩色蝋人形《座る女》のような作品が、「驚異の部屋」と呼ばれた博物陳列室に展示されていました。

人間は考える生き物でもあります。人間の脳の形や大きさと何百万ものニューロンを、ほかの動物(トカゲ、ワニ、ヨーロッパアカザエビ)の脳と比較する展示ケースをご覧になってください。唯一人間だけが生と死の意識を持っています。災いと闘うために、人間は呪術師に助けを求め、呪術師はさまざまな品物(例えばセネガルの魔除けの衣服)を用いてあらゆる方法を試みてきました。そして、彼岸へ渡ることを手助けするために、死に関する儀式を執り行うのもまた人間だけでしょう。18世紀の日本で作られた木造の地蔵菩薩像は、死者の魂を救う役割を担っていたといいます。人間はじつに多用な方法で世界について思考を巡らすのです。西洋文化では、人間は特別な存在で、自然を支配し、さらには自然を操ることすらできる存在とみなされていました。(有名なフランスの哲学者ルネ・デカルト(1596-1650)の頭蓋骨が展示されています。)

他者とのつながりを築き、言葉を持つことも人間の特徴です。7,000以上の言語が70億の人間によって話されているのです! なんと驚くべき数字でしょうか。展示室には、スイッチを押すことで30の言語を聞くことができる巨大な言語の壁があるので、ぜひ、その多様性を体感してみてください。また、大きな“白い舌”にお入りになれば、世界にはじつにさまざまな歌や音楽があることがお分かりいただけるでしょう。

この一連の展示の最後には、19世紀の人類の多様性を表した90体の胸像が飛翔する幻想的な展示をご覧ください。胸像は長さ19mのアルミニウムの支持体に展示され、高さ11mの2階まで達しています。いくつかの胸像は、実在の人物から型取りしたものです。27歳のイヌイットの女性アセナ・エレオノラ・エリザベットの胸像は1856年、グリーンランドで型取りされました。そのほか、シャルル・コルディエ(1827-1905)作の優美な《中国の女性》(1853)をはじめ、ブロンズ製のものも数多く展示されています。

ギャラリーの後半部は、20万年前のホモ・サピエンスの出現に至るまで、6000万年という長きにわたる人間の系譜に焦点が当てられています。頭蓋骨を型取りした複製が、4つの白い大きな展示台に年代順にまとめられ、ぐるりと並べられています。
まず、最初の展示台には、「トゥーマイ」の愛称で知られる最も古いヒト科、サヘラントロプスの頭蓋骨があります。700万年前のもので、サバンナや森などの水のある場所で生活していました。2番目の展示台で紹介されるのは、紀元前400万年から200万年頃アフリカに生息していたアウストラロピテクスのものです。有名な「ルーシー」の人骨は1974年にエチオピアで発見されました。ルーシーは直立二足歩行をしていたといいますが、ひとつ面白い実験をしてみましょう。アウストラロピテクスの歩幅で歩いてみると、彼の足が私たちのものより短いということが分かるのです。また手の大きさも比べてみましょう。大型類人猿と人間との分離は紀元前800万年から200万年に起こりました。さまざまな種が発達し、そこからヒト属がおよそ280万年前に出現しました。200万年前から20万年前に、ホモ・エルガステル種をはじめとするヒト属がアフリカに現れます。また、1985年にジブチで発見され、衝撃をもたらしたゾウの解体の様子を再現した実物大の展示もあります。150万年前、ホモ・エルガステル種のある部族が、さまざまな石器を用いてゾウを解体した時の様子です。40万年前、人は火を使えるようになりました。ここに展示されているニース近郊のテラ・アマタの住居跡の復元模型が示すように、火の使用は非常に大きな革新でした。

Update : 2016.4.1

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